稲妻
□お前の分も頑張るから
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「神童・・・」
「霧野か?入れよ」
病室のドアを開けると底には優しく笑ういつもと変わらない神童がいた。
「神童、足・・・大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
神童は昨日の準決勝の試合で全治3ヶ月の怪我を負った。決勝はおろか当分はサッカーができない。
神童の怪我は俺たちにも大きい影響があった。チームの司令塔である神童なしに決勝は勝てるのか、誰もがそう思った。それは円堂監督が戻ってきたおかげで何とかなったのだが・・・。
「・・・」
「霧野?」
何もいわず黙りきってしまった俺に神童は首を傾げた。正直、俺はココにきたはいいものの神童に何を言ったらいいのかが分からなかった。ベッド横に立っていた俺の手を急に神童が握った。俺は驚いて神童のほうを見ると神童は悪戯をした小さい子の笑った。
「神童・・・?」
「明後日、決勝だったよな」
「え・・・あ、あぁ・・・・」
神童のほうからサッカーの話をしてきたことで俺は少し返答に焦ってしまった。神童はそんな俺を少し笑うと真剣な顔になった。
「霧野、俺は出られないけど俺の分も頑張ってくれ。凄く応援してる。俺の夢を・・・・叶えてくれ。こんなのお前にしか頼めないからな」
そういってから神童は笑った。今にも泣きそうな顔をしている。でも、頑張って堪えている。今思えば神童は革命を始めてからはいっさい泣かなくなった。そう考えると今俺じゃなきゃできないこと・・・いや、俺がやらなきゃいけないことが一つだけあった。俺は神童の手を自分の手から外すとベッドの端に乗り上げ、座っている神童を抱きしめた。
「霧野・・・?」
「泣けよ!!本当は泣きたいんだろ!?泣くほど悔しいんだろ!?だったら泣けよ!!お前の涙ぐらい俺が受け止めてやるから・・・」
最初は神童もキョトンとしていたが糸が切れたように泣き出した。
「霧野・・・きり・・のぉっ!」
「・・・」
「俺・・・・くやしい!!みんなと・・・おまえたちと決勝戦いたい・・!!」
「うん、俺も」
「サッカー・・これほどやりたいって・・・これほど楽しいって思ったの初めてなんだよ・・・」
「知ってるよ、俺はずっとお前のこと見てるから」
「きりの・・・きりの・・・」
神童は俺の服を掴むと強く握り締めた。俺は神童の背中をトントンと叩きながら自分に出来る優しい口調で言った。
「大丈夫だよ、神童。俺たちは必ず勝つ」
「・・・」
「お前の分も俺が頑張るから」
「当たり前だ」
「おー・・・コレは厳しいな。だから、お前は早く足治せ。んでサッカーするぞ」
「・・・・あぁ」
神童もその後、何分か泣いた。でも、顔を上げた神童はどこか吹っ切れたようにスッキリとしていてそんな神童を見て俺も少し微笑んだ。
「悪いな、霧野」
「いや、いいんだ。コレは俺にしかできない仕事だろ?」
「そうだな・・・なぁ霧野」
「ん?」
ありがとう、そういって神童は俺にキスをした。
「神童っ!?」
「お礼だよ」
「本当・・俺ってお前にかなわないよな」
神童は顔を赤らめながらも楽しそうに笑った。そんな神童を見て安心しきった俺は鞄を持って帰ろうとした。だが、そんな俺の服の裾を神童は掴んだ。
「もぅ・・帰るのか?」
「明日も早いからな」
「・・・」
神童は寂しそうな顔をした。そんな神童の頭を撫でると俺は笑った。
「そんな顔するなよな。明日も来るから」
「絶対か?」
「俺が約束破ったことあるか?」
「ない・・・な」
「だろ?じゃあ俺帰るな」
「また、明日な」
俺は笑って神童の頭を撫でると病室のドアを開けた。
『お前の分も俺が頑張るから』
(俺も頑張る。だからお前も頑張れ)
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