稲妻

□大人になるまで忘れないで
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「どこか遠いところへ行きたいな」
「え?」

学校の帰り道、俺の横を歩いていた輝くんは何を思ったのか急にそんなことを言った。輝くんを見ると目は空を見ていた。

「旅でもしたいの?」
「いえ、そういうわけではなくてですね。自分の行ったことのないところへ行ってみたいだけです」
「それって結局旅じゃないの?」
「えー、違いますよー」

輝くんは笑いながらそれは旅じゃないと言った。俺はというと正直どうでも良くてはいはい、と適当に答える。

「大きくなって大人になったらいろんなところへ行きたいです。狩屋くんはそう思わないですか?」
「俺は別に・・・」
「何だか狩屋くんらしいです。そういうこと興味なさそうだから」

どういう意味だよ、と言ったが輝くんの耳には届いてないらしく当の本人はあそこも行きたい、でも別のところも行きたいと目を輝かせながら言ってる。例えるならそれはサッカーの話をする天馬くんのようだった。

「そうだ!!」

急に輝くんが大きい声を出したために他のことを考えていた俺は驚いた。

「狩屋くんも大人になったら僕と一緒に行きませんか?」
「はぁ!?」

輝くんは先ほど以上に目を輝かせながら俺に詰め寄る。

「何で俺なんだよ」
「だって、狩屋くんとならどこへ行っても楽しそうじゃないですか。それに1人は寂しいです」

だからお願い。そういって輝くんは俺を見た。俺はそんなの興味ないし、めんどくさい。でも、輝くんとならいいかもって自然に思えて気付いたときには口にしていた。

「ひ、輝くんがどーしてもっていうなら行ってやらないこともない・・・かな」

我ながら素直じゃないと思う。でも、輝くんの顔を見れば喜びに満ち溢れていた。

「本当ですか!?ありがとうございます!!じゃぁ、約束」

そういって輝くんは僕に向かって右手の小指を出した。

「今どき指きりかよ」

そう言いながらも俺は自分の小指を輝くんのに絡めていた。


『大人になるまで忘れないで』
(どうして君となら楽しいと思ったのか)
(どうして君とならいいと思ったのか)
(僕には)
(俺には)
(分からない)





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