稲妻

□赤はどうやったって青にはならない
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「雪村、そろそろ休憩にしようか」

俺の蹴ったボールがゴールに入り、転がったところで先輩は俺に声をかけた。それに返事をして俺は先輩のもとに駆け寄る。

「吹雪先輩!俺、今日は何だか調子がいい気がします」
「そうみたいだね、見ててわかるよ」

どこか自慢げに俺に先輩はふふっと笑った。そんな先輩に俺の胸が少し高鳴る。なんとなく先輩の顔を見てられなくて視線を先輩から外した。そのとき、俺の視界にこっちを見ている赤い髪をした青年が入った。不思議に思って先輩に声をかける。

「先輩、あの人知ってますか?」
「あの人って?」
「ほら、あの赤い髪の人」

先輩は俺が見ているほうに視線を移すと驚きの表情を浮かべた。

「嘘・・・・」
「先輩?」

先輩は俺の声が聞こえていないほど動揺しているのかなんで、どうしてと呟いた。俺はというとどうしていいか分からずただ先輩を見ているだけだった。そんなとき優しいけどどこか凛とした声が先輩の名を呼んだ。

「吹雪くん」

あまりにも近くで聞こえた声に俺は驚いて肩をびくっと震わせた。気がつくと赤い髪の青年は俺たちの近くまで来ていた。先輩はその人の顔をじっと見つめていた。

「ヒロトくん・・・」

ヒロトと呼ばれたその人は先輩に対して微笑みかける。

「ごめんね、連絡もせずに来ちゃって・・・・驚いた?」
「まあね・・・どうしたの?北海道なんて来て。あ、仕事?」
「違うよ、今日は休み」
「じゃあ、何で?」
「吹雪くんに会いたかったから来ちゃった」
「もう・・・またそういうこと言うんだから」
「ダメ?」
「ダメじゃないよ、嬉しい」

最初は驚いていた先輩もヒロトさんと話しているうちに驚きはなくなり、今では頬を赤く染めている。俺は、状況が分からず吹雪先輩の服の裾を引っ張った。

「先輩・・・」
「あ、ごめんね。えっと紹介するね。彼は・・・」
「吉良ヒロトです。吹雪くんの友達、よろしくね雪村くん」
「ヒロトくんとはね、イナズマジャパンのときに知り合ったんだ」

ヒロトさんは丁寧な挨拶をして俺に向かって手を出した。俺はその手を見ても握手はせず先輩の後ろに隠れた。

「あれ?嫌われちゃった?」
「違うよ。雪村は少し人見知りなんだ・・・ごめんね」
「大丈夫だよ。吹雪くんが謝ることじゃないし」
「でも、ごめんね」

先輩を困らせてしまったことには胸が痛むが俺は悪いけどヒロトさんと握手はしたくない。二人はあえて言ってないが恋人だ。前に先輩が恋人の話をしてくれたことがある。そのときの先輩はとても幸せそうな顔をしていて俺はその顔が忘れられなかった。そして、その顔を今目の前で先輩はしている。正直、言って俺は先輩が好きだ。だから、ヒロトさんは俺のライバル。悪いけど好きにはなれない。

「雪村くん、少しずつでも仲良くなれるといいね」
「ヒロトくん、何回北海道に来る気なのさ」

先輩が苦笑交じりにヒロトさんに言う。でも、先輩は楽しそうだ。俺は、ヒロトさんに子供扱いされて少し腹がたった。明らかにこの人は俺に警戒なんてしていない。先輩は取られないって思ってる。こんなことしたら余計に子供っぽいかもしれないけど先輩に俺は思い切り抱きついてやった。

「雪村?どうかしたの?」
「別に何でもないですよ」
「そう?変な雪村」

先輩が笑ったから俺もつられて笑ってしまった。ヒロトさんを見ると、顔こそ笑ってはいるものの目の奥ではあまり笑ってない。確実に嫉妬している。

「ヒロトさん」
「ん?どうかした?」
「いえ、別に・・・」

俺が抱きついてもあまり言ってこないのは、俺が子供だからなのか、先輩は渡さないという絶対の自信があるからなのか・・・。やはり、どこか腹がたってしまう。

「ねぇ」
「え?」

俺はヒロトさんの顔を真剣な顔で見ると先輩には聞こえないように口パクで言ってやった。

『先輩はいつか俺がもらいますから』

勝ち目なんかないかもしれない宣戦布告。でも、これで確実に子供扱いはされないだろう。そして警戒もされる。ヒロトさんは少し眉を動かすと俺に向かって笑っていった。

「大丈夫。絶対渡さないから」

先輩に聞こえるようにいうあたり、これが大人の自信ってやつか。先輩は俺とヒロトさんが何を言っているのか分からないため困惑している。俺はそんな先輩から離れると自分の鞄にものをしまい始めた。

「雪村?」
「先輩、俺今日は帰りますね」
「え、でも練習は」
「今日ぐらい別にいいですよ。せっかく"友達"が遊びに来てるんですし」
「それでも、やっぱり」
「俺がいいって言ってるんですから!!では、先輩さようなら!!」
「じゃあね、雪村。ありがとう」

笑って俺に手を振る先輩はずるい。ヒロトさんに嫌味でも言って帰ろうかと思ったのにこれでは言えないじゃないか。はぁー・・・とため息をついて鞄を肩にかけて帰り道を歩いた。ヒロトさんはサッカーの敵よりも強いかも。


『赤はどうやったって青にはならない』
(吹雪くん、雪村くんのことだけど・・・)
(雪村?いいこでしょー)
(いや、うん。いいこだけどさ)
(何?)
(・・まぁ、いっか)
(えー、気になるよー)
(まぁまぁ。・・・吹雪くん、浮気しないでよ?)
(しないに決まってるでしょ!僕、するように見える?)
(見えないけど心配なの)
(僕を信じてよね)
(分かってるよ。でも心配)



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