稲妻

□999本のバラを君へ
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俺はあの日、吹雪くんを突き放した。
俺の服に縋り付いて泣く吹雪くんを抱きしめなかった。
ただあの日分かっていたのは今の俺じゃ吹雪くんを幸せになんかできないということ。俺は謝ることしかできなくて吹雪くんの顔なんて見れずごめんって言葉を繰り返すしか出来なかった。
最後に言った吹雪くんの言葉が俺の頭から離れなかった。

『いつか迎えにきてくれるの待ってるから。ずっと・・・ずっと、ヒロトくんのこと好きだから』

涙を流しながらも笑って言う吹雪くんに俺は何も言えず、ただ涙を流した。
次の日、俺は吹雪くんの家に8本のバラの花を贈った。花束に手紙を添えた。

『俺は吹雪くんのこと好きだよ。だから、俺が君を幸せにできるような男になったとき迎えにいきます。それまで待ってて。バラの花は愛の象徴だから』

それから毎月30本のバラを贈った。毎月、毎月かかさず贈った。気づいたときには2年が経っていて、俺は父さんの会社をついで社長になっていた。そのとき、俺が贈ったバラは700本を超えていた。
それから9ヶ月がたった。ホーリーロードも終わっていろいろと落ち着いた頃、俺が送ったバラは998本になっていた。
俺は1本のバラを持って吹雪くんの元へと行った。もちろん、彼は驚いた。

「ヒロトくん、どうして・・・」
「吹雪くんをね、迎えにきたんだ」
「やっと・・・やっと僕は幸せになれるの?」
「うん。長い間待たせちゃったね、ごめん」
「ずっと待ってたよ。僕・・・ずっと、ずっと・・・辛くて寂しくて・・・」

吹雪くんは瞳から涙を溢れさせて雫を何滴も地面に落とした。俺はバラを吹雪くんに渡した。

「これ、受け取ってくれる?」
「バラの花・・・・?」
「これで999本目。知ってる?バラの本数には意味があるんだって」
「?」
「999本のバラは・・・・」

『何度生まれ変わってもまた貴方を愛します』

僕が顔に笑みを浮かべると吹雪くんの瞳からはまたたくさんの涙があふれ出た。

「吹雪くん、世界中の誰よりも愛してるよ」

あの日、抱きしめることのできなかった彼を力いっぱい抱きしめた。
どんなに嘘くさい言葉でも吹雪くんに言う言葉に嘘は一つもない。
2年と9ヶ月。長い長い時間をかけて俺は彼を幸せにすることのできる男になりました。彼が幸せになると同時に俺も幸せになることが出来た。だって、彼は長い間、俺を愛してくれていた。それだけで幸せ。
ただ、分かっているのは俺は彼を幸せにすることができたということ。
吹雪くんの持っている1本のバラと涙がなによりの証拠。


『999本のバラを君へ』
(もう君を待たせたりはしないよ)
(だって、俺はもうー・・・)

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