Main

□降りしきる想い(高野ver)
1ページ/2ページ

ひさしぶりの休日。
高野が丸川書店で漫画編集になってからというもの、作家との打ち合わせや、担当漫画のイベントだのでまともな休日を過ごしたことなど数えるほどだ。
そして今日はめずらしく何も仕事の予定が入っていない。

「あいつ何をしてるんだろうな・・」

【あいつ】とは高野の部屋の隣人であり、会社の部下であり、元恋人兼想い人である律のことだ。
仕事で何もすることがないとき、高野が考えるのは律のことばかり。
といってもあまり律のプライベートを知らないのも現実だった。
朝から物音も聞こえないし、電話やメールをしても一向につながらない(これはわざとかもしれないが)。


−どこかにでかけているのか?

イライラが止まらず、ちっと舌打ちした高野の視界には机の上にある数冊の本。
そういえば今日は図書館で借りた本の返却期限だった。

−もしかして図書館に行ってるとか?

ベランダから外を見るとどんよりとした曇り空。高野は小さな期待を胸に折りたたみの傘と本を手にして図書館に向かうことにした。
案の定マンションを出た途端にポツリと雨が降り出し、図書館に着いた頃には土砂降りの雨になっていた。
閉館時間近いせいか図書館は人がまばらだった。高野は借りていた本を返却してから、律の姿を探し歩いた。

−いないのか?

少しあきらめかけた瞬間、視線の先には男とは思えないほどのサラサラとした栗色の髪と細身のシルエット。
高野が探し求めた人物だった。

「・・・おい、おの・・」

声をかけようとしたとき、遠くにいる律が少し前かがみになって手にしていた自分の傘を誰かに渡していた。
小さな女の子が二人に律は笑顔を向けた。
おそらく律は傘を持ってこなかった女の子たち、自分の傘を使うようにと渡したのだろう。
傘を差して家へ帰っていく女の子を見送った後、律はそのまま土砂降りの雨の中へと駆け始めたので高野も慌てて飛び出していった。

「あの馬鹿!」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ