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□24時間いつでも
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「はぁぁ〜今週もハードだった・・・」

受け持ち作家が増えたのは、それだけ信頼されていることだからいままで以上に頑張らなければと思うんだが・・・
本来のスケジュールどおりにいかないのが漫画家。
受け持ちが増えれば増えるほど、慣れない律は振り回されてばかりだ。

「まだネームの段階なのにこれじゃ、先が思いやられる。」

幸いこの週末は、修正をお願いしたネームを待つだけ。特に休日出勤をしなくてもよさそうだ。
仕事が忙しい律は、家で自炊はおろか掃除や洗濯もほとんどできていない。

「男の一人暮らしだから、まだ許せるけど。この週末は洗濯と掃除で終わってしまいそうだ。」

肩を落としながら、深い溜息をつく。そろそろ日付が変わるだろうという時間に律は自宅へと着いた。
ドアを開けてすぐ、律の携帯が鳴り響く。ディスプレイを見ると母親からのメールだった。
メールの内容を見た律は顔から血の気が引くような思いで、帰ったばかりの自宅を飛び出した。
大通りでタクシーを捕まえて、都内で有数の大きい病院にたどりついた。
母親からのメールは父親が仕事中に倒れたというものだった。
とても短い文のメールだったので慌てて飛び出してきたのだが、実際に会ってみるとここ数日の過労によるもので明日にはもう退院できるらしい。
律はとりあえずわずかの間に面会だけしてそのまま家に帰ることにした。
気が付けば時計の針は深夜2時を過ぎていた。

−このままだと俺まで過労で倒れてしまう・・・

などと考えながらマンションの前でタクシーを降り、フラフラの足取りで目的の階でエレベーターを降りる。
こんな時間に誰もいないはずのマンションの廊下には、見慣れた人物が立っていた。

「高野さん?どうしたんですか?」

不思議に思いながら声をかけると、高野はゆっくりと律の方へと顔を向けた。

−なんだか目がすわってる??

「携帯・・・」
「え?」
「携帯、つながらなかった。」

高野が短くそう言うので、自分の携帯電話を取り出してみると電源が入っていない。

「あ、そうか。電池切れかけでした・・・慌てて飛び出したので、いままですっかり忘れてました。」

何か用でしたか?と言いかけたところで、律の視界が高野によって遮られる。
気が付けば強い力で抱きしめられていた。

「連絡つかなくて・・・心配した・・・。」

いつもより低い声が耳元に届く。身体の拘束が強くて律はうまく動くことができず、高野の表情を伺うことはできない。

「すみません。家から連絡があって父が倒れたっていうものですから、病院に行ってました。あの、仕事で何かありましたか?」

しばらくの沈黙。抵抗しても無駄だとわかっている律は、高野の言葉を待つことにした。

「・・・また、俺の前から急にいなくなったのかと心臓が止まりそうだった・・・」

高野の言葉の意味。10年前、自分勝手な思い違い(らしい)からあれほど大好きだった先輩の前から姿を消した学生の頃・・・あまり思い出したくはないのだが。

「そ、そんなわけないじゃないですか。大体、やらなきゃいけない仕事が山ほどあるのにそれを放り出したいなくなるほど、俺はいい加減な人間じゃありません!」

また沈黙。今日の高野は少しおかしい気がする。何があったんだろうか?

「あぁ、そうだな・・・。」

ようやく律を抱きしめていた腕の力が緩んだ。律は少し身体を離し高野の顔を見ると、とても穏やかな顔をしていた。

「高野さん・・・?」
「とりあえず、企画の直しをしてもらいたいんだがな、月曜日の会議に出すやつだから当然、それまでに直しておけよ。」

口から出てくるのは、情けも容赦もない鬼のような発言。

「そ、それって、俺に休日出勤しろってことですか?」
「別に出勤しなくても、俺の家でやれば一石二鳥だろ?第一、お前だけ休日出勤しても俺がOK出さない限り意味がないからな。」
「い・や・で・す!企画書の直しはメールなりFAXなりしますから、それでいいでしょうが!」

反論する律の手を高野がとった。

「俺が一緒にいたいんだってこと、いい加減わかれよ。お前に選択権はないからな、とりあえず今日はもう寝て明日作業だからな。」

そしてずるずると高野の部屋へと引きずりこまれる。

「だから、なんで家に帰らせてくれないんですか!」
「家に帰したらお前は居留守使うだろーが。」
「大体、高野さんの家に行ったら寝たくても寝かせてくれないじゃないですか!」
「安心しろ俺も疲れてるから、回数は減らす。」
「//////何の回数ですか!」

律の叫びは誰もいない部屋に虚しく響くだけだった。

『俺は24時間、いつでもお前といたいんだよ』

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