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□降りしきる想い
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なす術もなくこのまま倒れてしまうだろうと目を閉じた瞬間、律の腰が何かに強く引き寄せられた。
何が起きたかわからない律が恐る恐る後ろを振り向いてみると、少し渋い表情をした高野の顔があった。

「高野さん・・・」
「ったく、何やってんだお前は・・・雨の中転んだら泥だらけになるだろうが。」
「す、すみません。でも高野さん、どうしてここに?」
「図書館に本を返しに来てたんだよ。そうしたらお前の姿を見つけて声をかけようと思ったんだけどな。お前は子どもに傘を渡したかと思ったら、何も考えずにこの土砂降りの中走り出したもんだから追いかけてきたんだよ。」

見られてた・・・と思うと恥ずかしくて顔が真っ赤になる律を横目に、高野は律を自分の傘の中に入れ歩き始めた。
大人の男二人に一本の傘ではとても入りきるものではない。自分の身体は既に濡れているからいいようなものの、このままでは高野に申し訳ないと思った律は断ろうと思ったが、高野にしっかりと手を握られてしまっている。

−この手を本気で離そうと思えばできるのに・・・なぜ俺はそうしない?

濡れた手に伝わる体温が、冷え切った律の身体を温めてくれる。過去に付き合った女性と手を繋いだことだってあるのに、こんなにも心地いいと思ったことはなかった。
律の頭の中をぐるぐるとした思いがめぐる中、二人はようやくマンションまでたどりついた。

「あ、あのどうもありがとうございました。じゃぁ、俺はこれで・・・」

高野に頭を下げてそのまま部屋に入ろうとした律だったが、高野は握ったままの手を離そうとしない。

「どうせ風呂の準備も夕飯の支度もしてないんだろう?今日は俺の部屋に来い。」
「いえ、そんなことまでしていただくことは!」
「いいから。そのままだと本当に風邪ひくぞ。風邪ひいたからって仕事の量は減らさねぇからな。」

ぐいぐいと引っ張られ、高野の部屋の中で強引に入れられてしまう。律はようやくそこで高野の手を振り切った。

「どうして・・・」
「小野寺?」
「どうして高野さんは・・・俺にそこまでしてくれるんですか?」

ぽろっと口から出てしまった言葉。律は高野の顔をまともに見ることができずに玄関先で俯いたまま、高野の言葉を待つことにした。
律の視界に高野の足元が見える。ふと顎先に高野の指が添えられたかと思うと、顔を上げられそのまま唇を塞がれた。
律の中に高野の舌が入りこみ、絡め取られる。二人の唾液が混じりあい、漏れる吐息は自分でも驚くほど艶めいていた。
こうなてしまうと抵抗しようにも力が入らない。何度も角度を変えられ、息も苦しくなってくる。膝ががくがくと震えてきたところで、ようやく高野の唇が離れた。
それまで冷え切っていた身体はまるで炎がついたように熱い。顔も真っ赤になっているのがわかるほどだ。

「好きな奴のことを心配して悪いか?風呂は沸いてるから早く入っちまえ。夕飯の支度しておく。」

結局律は、高野に促されるまま風呂を借りることにした。
湯船につかりながら、頭の中で思うのは高野のことばかり。

−そう言っている高野さんの表情は、普段仕事しているときには絶対見ることができないほど優しくて
−その表情をしてくれるのは俺だけだったらいいのに、と思ってしまう自分がいるんだ

心の中で膨らむ想いはもう止められない・・・
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