短編集

□君が笑う
2ページ/5ページ

ひどく曖昧に



次の日の天候ももちろん雨。

いつものように早く登校し、定位置に収まる。

混んだ電車は苦手だった。


「おはよう。」

「おはよう。ね、一限の宿題やった?」

ちらほらと他の学生も登校してくる。

その中に咲も含まれていた。

「おはよう!」

元気にみんなに接しているが、全て流されている。

そしてみんな、無視した後にちらりと梅宮を見るのだ。

梅宮慎吾。遅刻の常習犯だが、今日は早く来ていたらしい。

学生服をだらりと着こなし、肩にかかる程の髪はやや茶色がかっている。

いつも退屈そうに見える彼は、彼の中で新たな暇つぶしを思いついたようだった。

彼の言葉はぜったいだ。

たとえそれがどんな事でも、彼の反感を買わないように遂行される。

「おはよう、卓巳くん。」


いつの間にか近くまで来ていた咲は、微妙な表情でじっと俺の方を見ている。

クラスのみんなが注視しているようだった。

すっと視線を窓にやる。

それだけで俺の意思はクラスに伝わったようだった。

見えていないが、咲はきっと泣きそうな表情になっているんだろう。

小さい2つの溜息が交わった。


なぜ俺がこんな罪悪感に苛まれるのか、最初はちっともわからなかった。

咲を無視しているのはクラス全員で、俺だけというわけでもない。

人との面倒な馴れ合いは得意ではなかった。

咲と話して、たとえクラスから無視されようとも、いつもの生活と何ら変わりない。

それでも、咲との会話は増えるんだろう。

それが少し煩わしかっただけ。

それでも確かに胸がちくちくと痛み続けていた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ