短編集
□君が笑う
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呆れるほど鮮やかに
下校のチャイムがなる。
咲は相変わらず孤立していた。
まあ、俺もそうだが。
クラスから波が引くように人が消え、何時の間にか2人になっていた。
教科書をまとめて、乱雑に鞄につっこみ、隣を見るとばっちりと目が合った。
咲の目が俺を捉える。
「もう帰るん?」
「…あぁ。」
考えるよりも先に言葉が転がり落ちていた。
ぱっと花が咲くように、咲の顔が輝く。
ばんっと俺の机に手を突きまくしたてる。
「一緒に帰ろ。このへん全然分からんから、ちょっと困っててん。昨日かって、正門と裏門まちがってな…」
止まらない会話に、面倒なことになったと思うが、満更でもない気もする。
返事をするまでもなく、下駄箱まで引っ張られ、靴に履き替える。
傘をクルクルと回しながら歩く咲は、夏を一足先に運んで来たようだった。