神田センパイとわたし

□神田センパイとわたし
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「げほっ、・・・・どちらさまでしょう?」


なるべく声を上げて、雰囲気を変えてセンパイにばれぬように話す。

普段笑みを見せない私はにこりと作り笑顔を作って。

センパイは首をかしげた。

今、おそらく私自身なのか私に似た別の人物なのかと迷っているところだろう。

しばらく迷うように目を泳がせるセンパイ。


「あの、どちらさまで?」


またふわりと作った笑みを浮かべながら首を傾げてみる。

するとセンパイはにやりと口角を上げたあと無表情になって私をまっすぐみつめた。


「・・・・誠城か。」


ドキッと心がはねた。

ばれてしまう、そう思ったのですかさず突っ込みを見れる。


「この家にいるものはすべて誠城なのですが。」


「あぁ・・・じゃあまこ。これでいいだろ。」


「(あーぁ、鈍いくせにこっちは鋭いんだから。)えーと、あの妹のこといってますか?」


「妹?この家は一人っ子だろうが。」


またドキッとする。

私はもうばれたなと思ったから、にこりとするのをやめた。


「(チッ、何で気づいちゃうかな)・・・・何のようですか、センパイ。」


「・・・芝居がへたくそなんだよ。」


「自分の素顔が知られたくなかったもんで。」


「あぁ?なんでだよ。」


「センパイには関係ないんじゃないんです?」


「気になるだろ。」


「本人が話したくなければ強要しないほうがいいと思います。」


「知るか、そんなの。教えろ。」


「嫌です。」


「教えろ。」


「嫌です。」


「教えろ。」


「嫌ですから。」


「おい教え・・」


バンッ!


私はセンパイの話をさえぎってドアを閉じた。

自分で閉じたのだがその音に頭が痛くなった。

私はすぐにドアを施錠した。そして自分の部屋へ戻って眼鏡をかけた。

センパイのせいでさらに体調が悪くなった気がする。

それからベッドに倒れこむ。


センパイに素顔を知られてしまった。

私は自分で自分を馬鹿だと思った。・・・・成績はそこそこいいほうだが。


たった数瞬見られただけだから別にさほど気にすることも無いだろうと思ったが今までがんばってきたものがもろく崩れ去った一瞬の破壊力は私にとって半端なかった。

自業自得というのにセンパイをうらみそうになったほどだ。

これから私はずっとセンパイを避け続けようと思う。

幸い私はセンパイと学校ではほとんど交流が無い。

なので私がセンパイを徹底的に避け続ければいいのだ。

よし、そうと決まったら徹底的に明日からそうしよう。センパイは絶対に一言も口をきかない。

そしてあの手合わせもやめよう。

私はきっぱりと今まで当たり前のようにやってきたことをあきらめた。

少し心に違和感と風が吹き抜ける小さな穴が開いたが知らぬ振りをする。


そんなときこそ神様は残酷で。


がちゃり


薬局で風邪薬を買った母が家へ帰ってきた。


「さ、入って入って。」


「・・・おじゃまします。」


階下から聞こえてきたのは間違いなく母とセンパイの声だった。


「まこー?薬買ってきたわよ。それと神田君がきてるから降りてらっしゃい。」


私は盛大にため息をついて仕方がないと母の声のしたほうへ体のつらさに耐えながら向かった。
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