蝶よ華よ
□第十五章 複雑な心境
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そして夕食を食べ終え、もえぎと陸が後片付けを行っていたとき、ふいに三翼の会話が聞こえてきた。
「庇護翼の反応は?」
「反応もなにも。とても守る自信がないちゅうて、あっさり辞退しおった。麗ちゃんとこは?」
「同じですねぇ。予想はしてたんですが即答でした。……水羽さんのところも?」
「威勢よく逃げた」
「……あれはホンマに呪いやな」
「――ねぇ、いまのどういうこと?」
「陸」
手に付いた水気を布巾で拭き取りながら、陸は三人に近寄り問いかけた。
「庇護翼が辞退って……今更になってみんな、神無ちゃんを守ることを辞めるの?」
「いいえ、投げ出すわけではありません。……本日、神無さんが女性としての成長を始めたことで状況が変わったんです」
「?」
「元々――華鬼の刻印がある神無の色香はだいぶ強かったんだけど、子どもを産むことが出来る状態になったことでそれが増したってわけ」
「つまり……郡司たちじゃ神無ちゃんの色香に負けて、守りにならないってこと?」
陸の言葉に、三人が頷く。
「せや、花嫁の色香に惑わされる庇護翼じゃあかん。神無ちゃんを華鬼や堀川 響から守るためには堅固な守りが必要なんや」
(――堀川 響……)
ぎゅ、と陸は己の手のひらを握りしめて、響との会話を思い出さないようにする。
「そ、うなんだ。帰って来たって言っても、木籐の振る舞いは変わってないんだ……」
「いや」
「違うの?」
「前と違うことには違うんだけど、何て言うのかな――複雑じゃない?」
「いや訊かれても。」
鬼ヶ里に帰って来てから華鬼を見ていない陸には、水羽の言葉の意味がさっぱりわからなかった。
「……そっか……。求愛して、九翼に増やしたのに結局――三翼だけなんだ。光晴、も……」
ぶつぶつと一人言を呟きながら部屋へと戻る。そして私室のドアを開けたとき――声が響いた。
「陸!」
「!」
あまりに大きな声で呼ばれたものだからびっくりして、勢いのままにドアを閉めたが……
「逃げんな!!」
光晴は手が挟まるのも構わずに隙間に滑り込ませ、強引に押し開く。
「……っ」
「……頼むし。陸に避けられるんはホンマにキツい……」
「み、つあき……」
しゅん、と肩を落とすその姿はまるで叱られた大型犬のようで、陸の胸は罪悪感でずきりと痛んだ。
「……ご、めん……なさい」
「――とりあえず、話し合おか」