蝶よ華よ
□第十五章 複雑な心境
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「おめでとうございます」
夕食の支度が終わってから神無を部屋から呼び出し、食堂の席に座らせてからのもえぎのこの一言。
テーブルを埋め尽くすいつもより豪勢な料理と、その言葉に呆気にとられている神無を見た陸は『それだけじゃわからないですよ』と微笑して、神無の前に炊きたての赤飯を置いた。
「……っ」
やがて、意味を理解したらしい神無は顔を赤らめて俯く。
「必要なものは寝室の右奥にあるクローゼットに用意してありますから。他にいるものがあったら遠慮なくおっしゃってくださいね」
「さすがもえぎさん、抜かりないですね。あ。もちろん、私のところに来てもいいからね」
こそこそと耳元で囁き合う女性陣の様子を見て、男性陣は心が和む思いがした。
「さて――そろそろ食事にしましょうか」
「あ……すみません。私、こっちでは……華鬼のご飯の支度が、」
「え。木籐帰って来てるの?」
「はい」
「へー」
(神無ちゃん、木籐のこと気になるって言ってたし……生家でそんなに転機があったのかな……)
陸がそう考えていると、華鬼のことを気にして落ち着かない神無の気持ちを察したもえぎがタッパーを用意して頷き、神無は目の前の料理をそれに詰めていく。
それが済んでからも、自分のために用意してもらった料理に口を付けずに席を立つのが悪い気がして――神無はその場に立ち尽くす。
「……神無ちゃん、手ぇ出してみ?」