蝶よ華よ

□第十六章 花の名
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「んーっ、今日も疲れたなぁ。……でも、美味しい料理が待ってると思えば!」


ぐっ、とガッツポーズをつくる杏に陸は嘆息する。


「もえぎさんの料理が目当てなわけ?だったら早く女子寮戻んなよ」

「えー、もうちょっと!だって、女子寮のご飯って毎日どっかのパーティーみたいなバイキングだし、つまんないんだもん。陸もいないしさ」

「最近いやに私にこだわるね?何かあった?」

「私は普通!陸が私を放っとき過ぎなんだよ」

「ああ……。ごめん」


杏の言う通りだ。夏休みが明けてからは神無のことがあって、彼女との時間が格段に減った。



「いいよー、事情わかってるから。その代わり、もう何日か泊めてねっ」

「……りょーかい」













二人で談笑しつつ、職棟玄関のドアを開けると――見慣れない少女がそこにいた。


「え」

「あっ、」

「誰?」


三人がそれぞれ驚きで固まる中、口を開いたのは陸の目の前の少女だった。



「えっとー……先生の誰かの花嫁さんですか?――あたし、神無の友達で土佐塚 桃子っていいます」

「……神楽 陸です」

「三浦 杏です」

「神無、具合悪いみたいで……今日はあたしの部屋に泊まるんです。だから着替えを取りに来てて」

「……そ、ですか」

「じゃ、失礼します!」


脇を通り過ぎて小さくなっていく桃子を陸は静かに見つめていた。




「陸、どうかした?」



「……あの子、花嫁だ……。なのに、神無ちゃんの友達……?」





小さな違和感。そして、神無が女子寮に泊まるということの意味を、陸はわかっていなかった。

 
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