蝶よ華よ

□第十六章 花の名
2ページ/5ページ




「「女子寮――!?」」



「水羽!」
「嫌だ」
「せやかて!」

「心配しなくても、お友達の部屋に泊まるだけなんですよ?」



「どうかしたんですか?」


夕飯時ということで食堂にやってきた陸と杏は、光晴と水羽の叫びに首を傾げた。


「神無ちゃんが、女子寮に行ってもうたんや!」

「それが、何か問題?」

「今日の朝教室で……神無が華鬼の花嫁だって言いふらされたんだ。本人に悪気はないんだろうけど、タイミングが最悪」


ざわり、と陸の表情が一変する。――頭に浮かぶのは先程出会った少女。


「え、それってもしかして」

「たぶん。――水羽、言いふらした人の名前は?」


同じ考えであろう杏に頷いて、水羽に向き直る。


「土佐塚 桃子。神無の友達で、鬼の花嫁」

「知ってるんか?二人とも」


「今日私たちが職棟に帰って来たときに会ったんです。神無さんの着替えを取りに来たとかで……」

「挨拶したくらいなんだけど……私にはあの子、神無ちゃんの友達に見えなかったんだよね……」


本当に神無のことを想っているんだったら、“花嫁”であることを安易に話すはずがない。自身も鬼の花嫁なら、尚更。







「とにかく、今の状況で神無が僕たちの手の届かない所にいるのは危険なんだ。でも、」

「女装は嫌じゃ!」


言って、光晴と水羽は項垂れる。やはり女装するしかないか――そう思ったその時だった。



「だったら、私が行きましょうか」



ピタリと皆の動きが止まって、声の主に注目する。


「女子寮暮らしの私なら、何の問題もないですよね?」

「杏!?」

「あかん!杏ちゃんを巻き込むことはでけん」

「でも、士都麻先輩や水羽くんが行ったら寮長からありがた〜いお説教くらって終わりでしょうし、陸を行かせるわけにもいきませんよね?だったら、私が行きますよ」

「せやけど……」


「……わかった。神無ちゃんはこの子ね」

「わ、寝顔の写メ?かわいー」


あっさりと了承し、今は携帯の画像を見せている陸に光晴は戸惑いを隠せない。


「陸!杏ちゃんのこと心配やないんか?!」

「もちろん心配だよ!……でも杏の言ってることはなにも間違ってないし、それ以外の方法もないなら仕方ないじゃない」

「私なら大丈夫です。神無さんを連れ出せばいいんですよね」


「っ……わかった。水羽、ええな?」

「うん。杏、神無のことよろしくね」

「任せて!」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ