蝶よ華よ
□第十七章 うつりゆくもの
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「は?私の昔のこと、神無ちゃんに喋った?」
「男が怖かった、ってことだけだけど。……神無さん、気にして陸に訊きに来るかもだから話しとこうと思って」
「ふーん、そっか。わかった」
テンパリ状態から脱した杏から聞かされたのは、昔の陸のトラウマを神無に話したとのこと。
(私の場合――トラウマ治ったっていうか、忘れたっていう方が正しいんだけど。どうやったら、とか訊かれたらどうしようかな……)
「っていうか、何でその話になったの?」
「え?あ、あーー……なんとなくだよ」
「ほぉ……?別にいいけど」
「……(花嫁さんたちの修羅場なんて言えない)」
「(私だって杏に言ってないことあるし。秘密の一つや二つ)……にしてもさ、」
陸はゆるりと天井を仰ぐ。
「“昔”っていうほど昔の話じゃないんだよね。……なんか嘘みたい」
「それは士都麻先輩の努力のたまものだよね」
「うん」
光晴の刻印がなかったらきっと、トラウマを持つこともなかった。でも、それを感じさせなくしたのも――光晴なんだ。
「でも今回はちょっと反省してもらわないとだよね!」
「あの禁止令、いつまでやるの?」
「え?決めてないよ」
「…………」
原因が光晴自身にあるのは確かだが、だんだん哀れに思えてきた陸だった。
(なんかごめん、光晴……)
「そういえば、文化祭まであと二週間だけどさ……今年は一緒にまわれないかな」
「ああ……でも文化祭は二日間あるし、一日は一緒にまわれると思うよ」
「ほんと?!」
ぱっと表情を明るくした杏に陸は微笑する。
「なに?やっぱり光晴に気ぃ遣うんじゃん」
「そりゃ……、去年二日とも一緒にまわれて私は楽しかったけど……その時の士都麻先輩の切なさ度合いと言ったら……もうね」
「?」
――そんなたわいない会話をしばらくしてから、二人はゆっくりと眠りについた。