蝶よ華よ

□第十九章 楽しみの輪
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学校中が飾りで花やぎ、生徒たちの声で賑わう日。――そう、今日は文化祭。

日程は二日間あり、今日はその初日である。





登校した生徒たちは各クラスでホームルームを終えた後、ばらばらに移動を開始する。


「陸っ!プログラム見た?」

「見た見た。……ブラスバンドの演奏会、やっぱ昼からだったねぇ」

「う゛。去年は午前にやってたと思ったんだけど」

「私は違うって言ったのに。んー、この時間だと当番だから行けないね」


クラスの出し物の接客は当番制だ。陸は二日目に光晴と回る約束をしていたので初日にしたのだが……すべてを叶えるのは難しい。


「あっ、ほら!茶道部のお茶会、和菓子出るって!」

「誤魔化した。――でも、いいね!行こ!」










茶道部のお茶会やバルーンアートへ行き、次は模擬店巡りをしようという話になり――通りかかったのは保健室。
普段は麗二目当ての女子でごった返しているにもかかわらず、今日にいたっては静寂に包まれている。


「ねぇ……杏」

「ん?」

「保健室って何やってんだっけ」


ぺらりとプログラムをめくった杏が、若干の間をおいて返答した。


「……絵本の読み聞かせ」

「なるほどね。あ、ここ少し開いてる」

「ほんと?見たい!」


音を立てないよう、そーっと室内を覗き……顔を引き攣らせた二人はすぐさまそこから離れた。







「何?!いまのピンクな空間!?息詰まるよ」

「でもまぁ、さすが高槻先生。キマってたよね」

「もしかして杏、読み聞かせ行きたかった?チケットは……もうムリそうだけど」


時間はすでに十時をまわっている。“あの”麗人の読み聞かせといったら、朝一での混乱が想像に難(かた)くない。今が保健室内だけですんでいるのを見ると、他の女子たちは予約などを済ませているのだろう。


「チケットなんていらないよ、ファンじゃないし。私だって、あんな空間いられない」

「だよねぇ。じゃ、模擬店行こっか!一組のケーキ屋は絶対行かないとだし」

「五組の創作たい焼きは?面白そうだよ」

「創作?何入ってんの?」

「えっと、ピザとかもちチーズとかって書いてあるけど」

「へー。それ、お昼ごはんに良さそうだね。最後にそこ行ってから教室戻ろうよ」

「うん!」


目的地が決まるや否や、陸と杏は小走りでそこへ向かった。


 
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