蝶よ華よ
□第二十八章 覆う黒
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――郡司が目覚める一日前――
(陸、おいで)
(なあに?)
(陸にね、プレゼントがあるんだ)
(!……リボン?綺麗な赤!長くてひらひら〜)
(だろう?肇や良人と外で遊ぶのもいいけれど、陸は可愛い女の子だからね。付けてくれる?)
(うん!いつも付けるね、ありがとう――!)
「……だいすき、おとうさん……」
懐かしい、過去の夢が終わる。そして、視界に映る見慣れぬ天井を認識した陸は飛び起きる。
「ここっ……?!」
「――ようやくお目覚めかい?待ちくたびれたよ」
「あなた誰?」
陸の寝ていたベッドから少し離れた位置にある椅子に腰かけていた男は、誰何の声にせせら笑う。
「酷いなあ、俺のこと忘れちゃったの?……まだ寝惚けてる?さっきも間違えてたもんね」
「……さっき?」
(私は、たしか……保健室に行く途中にお父さんの声を聞いて外に出て……)
「もしかして、さっき私を呼んだのはあなたなの?」
「そうだよ」
目の前の男は父ではない。懐かしい、でも拭いきれない違和感があった。
(行くぞ!肇、良人、陸!)
((はーい!))
(やだ、待って!お兄ちゃん、“おじさん”っ!)
浮かんだのは父の友人で、優しい人。幼いころ兄たちとよく遊んでくれていた彼。
「おじ、さん……?」
「そう、思い出した?」
「でも、そんなわけない!おじさんと最後に会ったのは十年も前なのに!」
おかしい。おかしい。陸の記憶中の彼と“似すぎている”。人間にとって、十年という時間は決して短くない。
(まさか、)