蝶よ華よ
□第三十章 さよならまで
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どうしてこんなことに?――問いかけたところで、その問いは空気に溶ける。
取り乱して泣き喚いて、気を失ってしまえたらどんなに楽だったろう。
知らなければならない事実から逃げ、捻じ曲げてしまった父の思い出、私の記憶。
(そんな現実……知らないままでいたかったなんて、酷い娘)
おじさんが言うには、一年前の誕生日前日に原因不明の立ち眩みによって倒れた私を、その場に居合わせたおじさんが保護し、ずっと目覚めを待っていたのだと。
故に、この一年で私が経験したと思っていた出来ごとは全て長く眠る中で私が創りだしたまやかし。私が“士都麻光晴”の花嫁であることは本当だが、名前はお母さんも知っていることだからなんらおかしくない。
はは、と空笑いが漏れる。
「なにそれ……わたし、そんなに想像力豊かだったんだ? 笑っちゃうね……」
嘘だった、全部嘘だった。それなら、もっと早くに起こしてほしかった。それなら、こんなに辛い思いしなくて済んだのに。――それなら、
「はやく消えてよ……!やさしい夢なんていらないっ……!」
(――さっき、抵抗なんてしなければよかった)
ベッドの端に放り投げられた赤いリボンを見て、ふいに浮かんだ。
「…………」
するりと、自身の首にリボンをかける。