蝶よ華よ

□第一章 はじまりの場所
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早々に屋内運動場を追い出された生徒たちの話題は、先程のもので持ちきりだった。
そんな中で、事情を知る一人の少女はあからさまな不機嫌オーラを振りまいていた。


「陸?おーい、陸。どうしたの?」

「杏……」


その少女・神楽 陸に話しかけたのは彼女のたったひとりの親友・三浦 杏だ。


「どうしたもこうしたも……さっきのアレ」
「あぁ、花嫁が届いたってやつ?」
「うん。……やっぱり木籐って最っ低!信じらんない!!」


髪の左側に付いた長いリボンを揺らし怒りをあらわにするが、彼女の容姿はとても整っているため、可愛らしくしか映らない。
鬼ヶ里高校には極端に美男美女が多く、陸もそのひとり、というわけだ。




「まぁまぁ、落ち着いて。ほら、教室着いたよ」
「はぁい……」


陸を宥めた杏は、二年八組と書かれた黒い木版がぶらさがる教室のドアを開けた。







教室の席に着いて、杏との会話を楽しんでいた陸だが、ふいに背中を何かが駆け抜けたような感覚に襲われた。
まだ暑さの抜けきらない季節なのに“それ”はまるで、真冬の冷気をまとった風。


「……!?」


「陸?」


様子の変わった陸に首を傾げると、急に彼女が立ち上がった。



「ごめん、杏!」
「ちょっと、陸?!……もう」


止める間もなく走り出した陸の背中を、半ば呆れたように見つめた。




「ねぇ、三浦さん。神楽さん……どうしたの?急に」
「保健室だから、気にしなくていいよー」
「そう?」
「うん、そう」


不思議そうに話しかけて来たクラスメイトに、杏はなんでもないことのようにあしらった。実際、彼女が急な行動を取るのは珍しくないのだ。


(あの子は、鬼の花嫁だから)










「一翼、高槻 麗二」
「二翼、士都麻 光晴」
「三翼、早咲 水羽。……お前たち、誰の花嫁に手を出しているのかわかってるよね?」
「“鬼頭”―――!!」


「ご名答。この代償、高くつくよ」




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