蝶よ華よ

□第二章 生け贄の娘
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「まず自己紹介な」


丸椅子に腰かけたまま微動だにしない少女は、光晴の言葉にも反応せずにいた。
息を呑む麗二・水羽・陸に視線を走らせた光晴は静かに口を開く。


「こっちのえらい美貌の保健医は、高槻 麗二」
「はじめまして、神無さん」

「んで、こっちの美少年は早咲 水羽。神無ちゃんと同じクラスや」
「よろしく」

「俺たち三人が神無ちゃんの庇護翼。まとめて三翼とも呼ばれるけど、まぁ呼び方はどうでもええねん。それともう一人……」

「はじめまして!二年の、神楽 陸です。神無ちゃん、でいいのかな?」
「朝霧、神無です」
「そっか。よろしくね」



にっこりと微笑みかけるが、おや?と思うほどの時間が過ぎても反応がない。陸への反応は置いておくとしても、ここは質問があって然るべき場面なのだ。
その姿に水羽はふっと息を吐き出し、立ち上がる。そして部屋の隅へ移動してステンレス製のゴミ箱を前触れもなく蹴りだした。



「ああもう!!僕たち庇護翼だよね!?それが何!?いまはじめて花嫁とご対面!?何それ冗談じゃないよ!!こんなひどい話ってある!?」

「み、水羽〜」
「華鬼のやつ!!本当ムカつくよね!!」
「それは同感!!」
「陸……。いや、俺も同感やけどな?」

「水羽さ〜ん?それ保健室の備品ですよ?」



麗二が微苦笑で問いかけるも、水羽の耳には入っていない。溜息をついて彼は神無と陸に淹れたての茶を差し出した。


「どうぞ、落ち着きますよ」
「ありがとうございます」
「陸さんも」
「あ、ありがとうございます」


「ねぇ、そんなことよりさ!!」


ゴミ箱をコンパクトに畳み終えた水羽が再び椅子に腰かけた。


「神無、質問ないの?」
「質問……?」


「そう!!いろいろ聞きたいことあるでしょ!?」


水羽のその質問に、なにを、と返す神無に陸はとても悲しくなった。同じ立場に立たされていた一年前の自分の姿と今の神無が、まるで重ならなかったから。
 
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