蝶よ華よ
□第三章 花嫁の宴
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「みっともないのは、あなたたちよ」
侮蔑の混じった声を打ち消すように、凛とした声が響く。女たちが悲鳴をあげて体をひねると、温かい雫が脱衣所に飛び散った。
「嫉妬に狂った女は見苦しい。冷水でなかったこと、感謝してもらえるかしら?」
木製の古風な手桶をもったもえぎは、射るような眼差しで四人の女たちを睨みつけた。
「――すみません、もえぎさん」
もえぎへの小さな謝罪とともに、再び飛沫が舞った。
「きゃっ」
「冷たっ!」
しかも、冷水。
「人を妬んで蔑んでる暇があるのなら、自分を見つめ直したらどうなの!?その冷水で、頭を冷やしたらいい!!」
「出ていきなさい。これは神聖な儀式です。その醜い嫉妬で汚されたくないわ」
もえぎと陸がすりガラスを指差した。
「でも――」
「出ておいき。まだ恥をかきたいの?」
「出口は、あっちよ?」
有無を言わさぬ口調に女たちは唇を噛んだ。
格が違う。
鬼の花嫁としての、そして、彼女たちを守る鬼の格が、嫉妬に狂った女たちとはかけ離れていた。
女たちはそそくさと脱衣所を出ていき、もえぎはそれに溜息をついた。
「重ね重ね、申し訳ありません。大丈夫、あなたは幸せな花嫁になれます。お聞きになったでしょう、鬼はとても情が深い生き物です。とくに、鬼頭の名を継ぐ者は別格と伺っています」
しゃがみ込んで、震える神無の肩にそっと手を伸ばし微笑む。
「鬼は強ければ強いほど、子を成しにくくなります。だから強い鬼というのは、自分の子を産んでくれる花嫁を本能で守り、愛するのですよ」
神無に語りかけるもえぎの後ろで陸は、神無を安心させるように笑ったが、心の中ではそうではなかった。
(確かに、もえぎさんの言ってることは正しい。けど、例外はあるんだよ……)