蝶よ華よ

□第四章 守り手たち
1ページ/9ページ



薬品の匂いが漂う一室に、男が九人、女が一人集められていた。その内六人の男は困惑した表情を見せていたが、他の四人の視線は職員宿舎へと向けられていた。



「景気よくやりましたねぇ」
「当事者でしょ、先生。……ていうか、あんなにやったの……」
「黙らせるのは拳だよね」
「おおよ、拳やな!」
「……もう手当てしてあげない」
「ちょ、陸!?」



壁の一部は崩れ去り、屋根には大きな穴。もちろん床も無事ではなくて、階下まで被害が及んでいる。
――そんな様子が遠目からでも察せることに、陸は項垂れた。




するとふと、後ろから声が掛けられる。


「本題に入りませんか?ここに呼ばれた理由はわかっているつもりです」
「求愛の件ですよね?」
「しかも鬼頭の花嫁」

「なに考えてるんだよ、水羽!!」
「あんた子供でしょ!?」

「いや、その件はおいといて、まず求愛の話を――」
「おいとくな!!三十三歳って言ったらまだ子供だよ!子供!!それが鬼頭の花嫁に求愛して、あの人に恥かかせて、無事でいられると思ってるの!?」



長命である鬼にとってその年齢での求愛はあり得ない事柄で、鏡に映したように同じ顔の少年二人が水羽を責めた。



(人間なら、とっくに大人だけどねぇ……)



陸も彼らの年齢を聞いた時は、それはもう驚いたものだった。


「歳は関係ないし、僕にだって守りたい人はいる」


「そーゆーことや。郡司、透。主の命じゃ。庇護翼として花嫁を守れ」


光晴に呼ばれた二人は椅子から立ち上がった。
がっしりとした大柄な男が、隣にいる長髪の男に一瞬だけ目を向けて、光晴に向き直る。


「花嫁は、鬼と婚姻した後は、庇護翼の手を離れ、その鬼が守ることになるはずです」
「なんや郡司、不満か?」

花嫁を守るはずの庇護翼が求愛し、さらに自分の庇護翼にまで守らせる。それはあまりに異常な出来事で、男は困惑するが、やがて深呼吸をして頷いた。


「お受けします」

「透は?」
「受けます。――ですが、陸はどうなるんですか?」


透、そう呼ばれた男の視線は光晴の隣にいる彼の花嫁・陸に向けられていた。



「私?」
「陸もや。二人とも、俺の花嫁やからな」
「はい」


そして麗二や水羽が自分の庇護翼に伝えている最中、陸は郡司と透の元へと歩み寄った。





「郡司、透」


「陸」
「陸は、納得してるのか?」
「うん、してるよ。……だって私は、昨日の神無ちゃんに対する木籐の態度を見てるもの。それに、郡司と透もいてくれれば、心強い」


ね。と、にっこり笑顔で返されれば、もう言うことはなかった。




「それじゃ、話も終わったみたいだし」
「俺らは帰るよ」
「うん、じゃーね」

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ