蝶よ華よ
□第五章 知られざる真実
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「鬼頭の花嫁、なんとかしたいんでしょ?だったら手を組まない?」
「話を聞こうか」
神無たちの知らぬところで、醜悪な笑みがふたつ、生まれた。
「いまどき魚を三枚におろせるなんて」
お玉と小皿を持って嬉しそうに笑ってそう言ったのは職棟を切り盛りする女性・もえぎである。
「味付けもいいわ。これからいっしょに食事作りましょうね、神無さん」
神無はこくりとちいさく頷く。
「もえぎさん、さり気なく私のこと貶めてます?」
料理を運んでいた陸はゆっくりと振り返る。
「いえいえ。陸さんも今はちゃんと出来ますものね」
「『今は』、そうですね」
実は陸は鬼ヶ里に来た当初はまったくと言っていいほど料理が出来なかったのだ。だがそれは経験がなかったという方が正しくて、もえぎに教わった今はかなり上達している。
「新妻とオカンとメイドさんやな」
テーブルに頬杖をついた状態の光晴がぽつりと呟いた。
「三人そろってお持ち帰りしたいですねぇ」
「陸はあかんで」
「おや、二人はいいんですか?」
「それもあかん!」
麗二と光晴が妙な論争をしていると、もえぎは
「幼妻とお姉さんとメイドさんです」
と、訂正を入れていた。
「なんで私はメイドなんです……?」
「僕、手伝おうか?」
大きな皿を持った陸に水羽は近寄る。美少年と呼ばれる容姿の水羽なら、交ざっても違和感はないのだが。
「微妙やな」
「微妙ですねぇ」
「……」
「麗二!光晴も!!食べたいなら手伝ってよ!」
見ているだけの二人が怒鳴りつける。
「手伝いたいけど何すればいいかわからんし。――包丁支えよか?」
いつの間にか神無の後ろに立った光晴はそう訊いた。
「光晴!そんなことしたら神無ちゃん怪我しちゃうでしょーが!」
「本気ではせんって」
「怪我は平気です」
神無がちいさく返した言葉の意味を理解した麗二と光晴は一瞬言葉を失った。
神無は、怪我は慣れているから平気だと――そう言ったのだ。
「もう怪我は平気なんて言わんでええんや」
「そうですよ。でも――」