蝶よ華よ
□第五・五章 剛の花嫁
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「……いた。陸っ!」
「まったく……なにやってんだよ」
二人は急いで来てくれたのか、やたらと早かった。このくらいの運動じゃ、息は乱れていないが。
「ごめんね、二人とも。呼び出したりして」
陸が二人を呼び出したのは職棟の裏。三人の事情を掛け合わせれば、夜に会えるところなんてここくらいしかないのだった。
「で、何だよお取り込み中って。光晴とケンカでもしたわけ?」
「違うよ。今日、私たちの部屋に神無ちゃんが泊まってるの」
「朝霧さん?……あぁ、鬼頭の部屋は住めないからか」
「でも、朝霧さんが泊まると何で陸が出て行くんだよ。……大体、自分の部屋もあるだろ?」
わけがわからない、といった様子の二人に微笑して、すぐに陸は表情を消した。
「“無能の花嫁”」
「「!!」」
呟かれた言葉に、郡司と透の体が強張る。
“無能の花嫁”――それは、陸の体のことを知った“上”がつけた陸の俗称。
「この話を、今神無ちゃんにしてるから。……わずかでも聞こえてくるのが嫌で、逃げてきた」
光晴の過去を聞いたら、陸のことを疑問に思わないはずがない。
「自分の過去を話す光晴と、私の体のことを謝る光晴は嫌い」
はじめて陸の体のことを知ったとき、“上”に無能だと判断されたとき、光晴は暫く陸に謝り続けたのだ。『俺のせいだ』と。
「……陸、それはわかるけど。光晴は陸のこと好きだろ?それだけじゃ、駄目なのかよ」
透の言葉に、陸は俯く。
「私の体のことを謝るってことは、後悔してるんだよ。私に印を刻んだこと。……例え私たちが好き合っていても、その気持ちに同情はあるし、その事実は変わらないの」
「……」
「ねぇ郡司、透。どうして私は光晴の花嫁なのに、光晴のことを苦しめ続けるんだろう。そして、普通の人間ではなくて、鬼の花嫁にもなりきれない私は、なんなんだろう……」