蝶よ華よ
□第七章 狂宴の夜
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「森には入りません!無茶もしませんっ!だから――」
「私も行きます」
「……!はいっ!」
てっきり止められると思っていた陸だが、いつの間にかちゃっかり二人分の懐中電灯を持っていたもえぎに苦笑して、そのまま表へと出て行った。
「神無ちゃんっーー!いたら返事してーー!!」
森へは入らずに入り口周辺を二人、手分けして探していると――しばらくしてもえぎが陸を呼んだ。
「陸さん!神無さん見つかりましたよ」
「本当ですか!……っ神無ちゃん!!」
地面にへたり込んでいる神無の姿が目に入って、陸は駆け寄り抱きついた。
「無事でよかった……気持ちはわかりますけど、あんまり無茶をしては駄目ですよ」
「心配したんだよ……」
そう伝えると、神無から謝罪の言葉が聞こえた。
「神無さんの様子がおかしいって伝えたら、三翼が真っ青になってリビングを飛び出していきました。――三翼には会えなかったんですか?」
安心して、すっかり元の調子に戻ったもえぎが問えば、神無はそれに首を振った。――ということは、会うことはできたのだ。
「会えたのに一緒じゃないのなら、また戦ってるの……?」
「陸さん。きっと心配はいりませんよ」
「……はい」
血の気が多い一族。それに、剛の士都麻と呼ばれる彼なら心配いらない。麗二と水羽もいる。
それでも――
(それでも、少し前まではこんな頻繁に乱闘なんて、なかったのに――……)
「どうしたんです?」
声に、はっとして顔を上げた陸だったが、今の言葉は陸にかけられたものではなかった。
なんと神無は、たった今抜けてきた森へ引き返そうとしている。
「え、神無ちゃん?どうして……」
「私を助けてくれたひとが、怪我をして」
「……三翼――では、ないのですね?」
「……行きます、か?」
果たして自分たちだけで戻ってもいいのか。まだ危険が潜んでいるのではないか。――そんな逡巡の後、もえぎが真剣な表情をして右手で神無と、左手で陸と手を繋いで、ゆっくりと歩き出した。
神無が何度か足を止めて場所の確認をするが、一向に怪我人はおろか、人影すら見つからない。
「神無さん、もう帰りましょう」
「神無ちゃん……」
「でも、確かに――」
懐中電灯で辺りを見渡して、神無は何かを引き摺った跡があるのに気付いた。――だがそれも、途切れているのがわかる。
神無は茫然自失といった状態で、左手にあるちいさな木彫りの人形を握りしめていた。