蝶よ華よ
□第八章 黒い使者
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「水羽!ちがうよ、私は森園くんに巻き込まれたわけじゃない!」
「陸には聞いてないよ。僕は風太と雷太に聞いてるんだ」
誤解を解こうと立ち上がった陸だが、水羽に冷たくあしらわれて口を噤んでしまう。
「水羽、ストップ。俺と麗ちゃんの庇護翼も出て先手打っとるし、逐一連絡入れるよう厳命しとる。当面は問題ない。……だから、人に当たるんはやめ」
「……わかったよ」
光晴の制止に、仕方ないというように息をついた。
「ただ、な。どうも状況がおかしいんじゃ。神無ちゃん、連れてかれたらしくて」
「うん。黒いスーツに黒ネクタイ、紫のシャツ着た男に」
「連れてかれたって……それって、親父さんの庇護翼……?」
目を見張る水羽に、光晴が続ける。
「車(あし)は全部で七台。俺の庇護翼に監視させて、相手の意図も読めんから泳がせとる」
「今から二十分くらい前かな?俺たち、向かいの校舎から廊下にいる朝霧さん見つけて、そしたら」
「中庭に男がいて、朝霧さんそれ見て急に走り出したんだよ」
「その時、私も見てたの。……でも神無ちゃんて、あんな感じの知り合いいるの?」
陸の疑問は、その場にいる皆の疑問でもあった。
「おかしいんですよね、婚礼のとき、華鬼の生家には連絡がつかなかったとかで、顔見知りがいるとは思えないんですが」
「でも、知り合いみたいな反応だったし……」
「中庭に出た瞬間、ナイフ投げられてた」
意味がわからず、眉を寄せたまま水羽が双子を見る。
「ナイフって、親父さんの庇護翼が神無を襲ったの?」
「別人やろ。ほれ、ごっつう趣味悪いで」
言いながら光晴が差し出したのは、両刃がついている形状のダガーと呼ばれるナイフだった。その刃は、まだらに変色している。
「うわ……っ!何これ……」
「毒を仕込まれているようです」
「毒?!……じゃあもし、こんなのが神無ちゃんに当たってたら……!!」
考えるのも恐ろしい。――さぁっと青ざめた陸は光晴の服を強く握る。その様子に、光晴は陸の頭を撫でて大丈夫だと言い聞かせた。
「ひとまずは神無ちゃんに当たっとらんし、守るから。そんな怯えんでも平気や」
「あのー、ひとついい?」
雷太が挙手をして、ふとした疑問を口にする。