蝶よ華よ
□第九章 奇妙な家
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森の中、桜の木々に囲まれた屋敷を四対のレンズが映す。
「三手に別れて監視が妥当やな」
「神無さんがどこに滞在するかにもよりますね。しかし、この広さは想定外です」
「せやなぁ。ひとまず見取り図とか手に入らんか?住人は……数えるか。庇護翼も多いなら花嫁の数も半端ないな。ありえん神経じゃ」
「庇護翼二十人だっけ……。じゃあ少なくとも二十人の花嫁がいるってこと?」
「さぁな……。とにかく理解できん」
そう三人で話していると、今まで黙っていた水羽が一足先に神無を発見したらしく、小さく呟いた。
「神無、何やってるんだろ」
その言葉に麗二と光晴は双眼鏡を構え直して神無を探し始め、それとは反対に陸は自分の双眼鏡を下ろした。
「……」
(何て言うのかな……。やっぱり、羨ましいなぁ)
これまで庇護翼に守られて、自分の鬼に大切にされて育った自分と、庇護翼はおらず、自分の鬼に何度も殺されかけている神無。――どちらが幸せなのかは誰から見ても明らかなはずなのに、陸は神無が羨ましくて仕方がなかった。
「……なんと申しましょうか」
「っ……麗二先生?」
深く考え込んでいたのか、はっとして陸が声の主・麗二を見上げると、その視線は双眼鏡を眺める他の二人に向いていた。
「覗き魔ですね」
「世界平和の一環やん」
「野鳥観察だよ」
「先生もそのひとりですよね……」
「いえ私は」
「「同じやろ(でしょ)」」
言ってから、光晴は盛大な溜息をついた。
「それにしても、こっからやと庭木が邪魔して部屋の位置がわからん」
「状況、悪すぎますよねぇ」
(花嫁の問題だから。……だから、こんなに慎重なんだよね)
「退くわけにはいかん。絶対に」
(……っ!)
「退く気なんてないけどね」
ふと零された光晴の独り言に、陸の体が震える。
(――大丈夫……)
そう自分に言い聞かせても、陸の心には確実に“何か”が生まれていた。光晴の独り言を水羽が拾ってくれてよかったと本気で思う。
(――陸さん……)
今の自分の異変は誰にも気づかれていない。……陸はそう、思っていた。