蝶よ華よ
□第十章 想いの行方
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神無が誰の部屋に泊まるのか。……それは考えてもわからないということで諦め、引き続き様子を見るに留めた。
「うーん、特に、動きは見えないよねぇ……。って、光晴?どうしたの?」
双眼鏡を外して陸が振り返ると、その斜め後ろで光晴が携帯を手に、まるで壊れたブラウン管のテレビにするように、振ったり軽く叩いたりしていた。
「んーー……。ちょっと“とあるトコ”に電話したいんやけど、ココ圏外なんや」
「え、でも昼間、麗二先生電話してたよね?」
「山奥やし、電波悪いんかもしれん」
「それ、急ぎなの?」
「……まぁ、な」
「じゃあ、中に行ってくれば?」
「「水羽」」
ひょっこりと、二人の間に割り込んできたのは、いつから聞いていたのか――水羽だった。
「何の用かは知らないけど、家の固定電話なら繋がらないってことはないでしょ」
「おーナルホド。せやったら早速準備や」
何やらごそごそと荷物を探り始めた光晴を見て、陸は首を傾げる。
「……準備って?」
「私服のまま侵入したらバレバレだからね、変装するんだよ」
「ああ、そっか」
「じゃーん。陸、どないや?」
自ら効果音をつけて登場した光晴の服装は、神無が言っていた“うしさん”と同じ、黒のスーツ姿だった。
「わぁ、“変装”ってそのスーツなんだ!……うん、似合ってる。カッコいいよ」
「ホンマか!?いや〜、陸がこう言うてくれるんなら、スーツも悪ないな。……襟、ちょっと苦しいけど」
「はいはい。いつまでも格好つけてないで、さっさと行ったら?陸のことは僕らにまかせて」
水羽が、そう言って光晴の背をぽんと叩く。
「せや、――陸」
「ん?」
「俺がいない間……絶対にひとりになるんやないで」
「え?ああ、うん」
「約束や。水羽か麗ちゃんのそばに、ちゃんとおるんやで」
「わかってるよ。そんなに心配しなくても大丈夫だから」
「じゃ、行って来るわ。……水羽」
「ん、了解」
「行ってらっしゃーい」
笑顔で見送った陸だったが、今のやりとりに若干の違和感を感じていた。
「陸、どうかした?」
「ううん。なんか今の光晴、いつもより過保護だったかなぁ……って」
「そりゃあ、そうもなるんじゃない?僕と違って光晴はここの地理に詳しくないし、神無と華鬼のこともあるし、おまけに堀川 響までいるんだ。……だから、光晴の気持ち、少しわかるよ」
「そう、いうもん……?」
「そういうもんだよ」
何故か、それだけではない。――そんな気がしていたが……“それ”が何なのかは、陸は見当がつかなかった。――今は、まだ。