蝶よ華よ
□第十一章 罅(ひび)
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昨日、陸は麗二を拒絶する形で眠りに就き――目が覚めた時には……なんととっくに朝だった。
いつ、何が起こってもおかしくないこの緊張空間で、しかも、車の中には自分以外男という状況で熟睡とは。
(これってどうなの……。いくら、昨日は色々あったからって、)
(「俺を選ばへんか?――神無」)
(……色々、)
(「お前、哀れな花嫁だな」)
(あって……)
しっかり思い出してしまってから、打ち消すようにぶんぶんと首を振った。
(これ以上考えるのよそ……、落ち込む)
はぁ、と溜息をついて三人の声がする方へ耳を傾け、一歩踏み出すと――すぐにその足は止まった。
「はじめは、ホンマに守るためだけに刻んだ印やった」
――もう、
「守りたいだけやったのに」
……イヤだ。
「本能と呼ぶんでしょうね、この想いを」
「でも、それだけで好きになったりしないよ。ここまで来たりしない」
紡がれるその言葉たちを耳にして陸は俯き、無意識のうちに髪に結ばれたリボンをぎゅっと握った。
(“どうして私ばっかり”。この思いを、どうして、――――いま?)