蝶よ華よ
□第十二章 温かいひと
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「佐原さん、俺は鬼頭生家に戻りますので陸のこと、よろしくお願いします」
「はい、話は麗二様から聞いてますので大丈夫ですよ。お任せください」
「郡司、本当にありがとうね。透にもお礼言っておいて」
「ああ。じゃあな」
もえぎの元へと陸を送り届けて、休憩もせずに郡司は来た道を引き返していった。
郡司を見送って、その背が見えなくなっても陸はまだその場を動こうとはしなかった。もえぎはそんな陸に、優しく声をかける。
「陸さん、私の部屋でお茶にしましょうか。おいしいクッキーがあるんですよ」
「……はい」
室内に入り、お茶とクッキーをご馳走になった陸だが――正直味はよくわからなかった。『おいしい』ともえぎのお墨付きだっただけに、今の精神状態で食べるには勿体ないものだろう。
もえぎは普段通りに接してくれているが、このまま黙っていることは陸の方がいたたまれない。
「…………あの、もえぎさん」
「なんですか?」
「さっき、郡司に……『話は麗二先生から聞いてる』って言ってましたよね。――どこまで聞いてるんですか?」
問いに、もえぎはお茶のカップを置いて陸を真っ直ぐ見つめる。
「私が麗二様から聞いたのは、『陸さんお一人だけご帰宅されるので、よろしくお願いします』ということだけですよ」
「え。それだけですか……?」
「それだけです」
あまりの簡潔さに陸はきょとんとする。
「どうして私だけなのかとかも、一切?」
「はい。……気にならないと言ったら嘘になりますが、無理に聞くこともありませんからゆっくりしててくださいね」
「…………」
(きっともえぎさんは、私と光晴の間に“何か”あったことくらい気付いてる。……それなのに、この人は――)