蝶よ華よ

□第十二章 温かいひと
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「もえぎさん」

「はい?」

「……もえぎさんは、“鬼”との結婚について、どう思ってるんですか?」


鬼ヶ里に来たばかりの頃、似たような質問を陸はもえぎに投げかけている。しかし、その頃と今では“訊きたい答え”が違う。


「――私は、麗二様の七人目の花嫁です」

「えっ、七人?!あ、でも……」

「ええ。鬼は長命で、生きている間に何人もの花嫁を迎えます。……それは、ご存知ですね?」

「はい」


鬼の寿命は六百歳と長く、麗二は五百歳を越えたか、そうでないか、というくらいの年齢だと聞いていた。それなら、花嫁が七人目というのも不思議ではない。


「私がそれを知ったのは鬼ヶ里へ来て間もない頃で……手元にあったものを麗二様に投げつけた覚えがあります」

「投げつけた!?」

「はい。すぐに受け入れることは出来ませんでした。ですが、今は違います」

「受け入れて……幸せ、なんですよね。――麗二先生が神無ちゃんに、求愛してからも同じですか?」

「……そうですね、変わっていません。ですが、私が陸さんの立場だったらどうなっていたかはわかりません」



鬼ヶ里へ来て一年。それで、自分の鬼が他の花嫁に求愛したら?そして、その花嫁に惹かれてしまったら?



「――私、光晴にひどいこと言っちゃったんです。それで、郡司と透のところに逃げたんです」

「そうでしたか……。でも、衝突することもあって当然だと思いますよ?」

「私は今でも光晴が好きです。だけど光晴は今、神無ちゃんが好きで……。初めて会ったときに神無ちゃんの味方になるって、応援するって決めたのに……私、」

「陸さん……」


陸は膝の上に置いた手のひらをぎゅっと握る。


「すこし、距離を置かれてみては如何ですか?……考える時間がお互いには必要かと。二階が居辛いなら私の部屋に来ても構いませんし」


もえぎも陸の抱える欠陥は知らない。その不安は打ち明けることが出来ないけれど、相談する相手がいたことは陸にとって救いだった。



「ありがとうございます……もえぎさん」

「いいえ。私でよかったらいつでも相談に乗りますよ」

「……心強いです」


(私……私もいつか、なれるだろうか……)




――このやさしくて、強い、温かいひとに。



 
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