白哉長編

□大切なものに
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いろりside










『お母様!』

小さい頃のあたしが呼び掛けた先には、黒髪の綺麗な女性が立っていた。



あたしの呼び掛けに振り向く。



『あぁ、もう着替えたの。とてもよく似合っているよ。
でもいろり…』

母は澄みきった声で困惑したように言った。

『だがもうそろそろ………家に出発する時間だろう?』




今、母は何家って言ったのだろう?





そこだけノイズがかかっているように聞こえない。




『選考会…
上流階級の家の貴方と同年代くらいの姫君が……家に集まるが』




『でもあたし、………とは毎日のように遊んでいますよ!
わざわざ重い着物を着てまでして出ないといけないのですか?』



なかなか痛いところを突くな、と母は笑った。




無意識に見せたであろうそれはとても美しい笑顔だった。

これがあたしの母なのか…


『形だけでもやらなければならないんだ。
他家の息女達には申し訳ないが、結果は既に決まっているのだがな。』










『お嬢様、出発致しますよ!
早くおいでくださいませ!』





少し遠くから女中らしき女性の声が聞こえてきて、昔のあたしは母に一礼してから優雅に部屋を退出した。


くるりと回った時、頭の上の髪飾りが光った。















あれは……





















ついこないだ義姉さまにもらったばかりの、桜の簪。

今も髪に挿してある。














そう思っていたら、また場面が変わった。



『よって、………家の若君の婚約者は、八ノ宮家の長女、いろり様に決定するものとする。』



よくわからないが、あたしはそのなんとか家の男の子の婚約者に決まったの?






そしてもって、その男の子は何処に座っている?













少し高い段に、少年が座っていた。













…………………!










あたしは、どうしてこの尸魂界に足を踏み入れたのか?










この見知らぬ男の子に会いにきた。










この見覚えのある男の子に会いにきた。










この古い友人に会いにきた。









このあたしが愛してる人に………











会いにきたんだ。
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