白哉長編

□遠い面影
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広い朽木家の庭で幼い少女と少年が遊んでいる。
明るく優しいいつもの光景、日常。




『白哉ーっ!!』

















『騒々しいぞ!』


『そんな言い方をせずともよかろうて。白哉坊の大事な嫁じゃろう?』





嫁、というとまだ幼い白哉坊はいつも顔を真っ赤にして

『誰がこんな奴を嫁にもらうか!』

と説得力皆無の声をあげていたものだ。




割と人嫌いだった白哉坊だが、何故かいろりのことが大好きだった。
毎日のように会って、白哉の鍛練を観察して(白哉を越えてしまうので真似はしない)、鬼事をして、喋って、驚くほど二人の仲は良好だった。
そして婚約していた。
親が決めたものだったが、別に両想いなので問題ない。



そんな風だと普通はあの二人の中に儂の居場所はあるはずがないのだが、何故か儂もいつの間にか輪に入って遊んでいたものだ。
どうやら白哉坊には嫌われておったろうが(鬼事やいろりのことなど)、いろりには姉と認識されていたのだろう。

『ねえ、お姉様。』

『何かの、いろり?』

『夜一お姉様っていつも変わった話し方するね』

『そうじゃなー』

『いろりね、大きくなったらそんな風に喋りたいの!』

『そうかそうか、さすがは儂の教育が行き届いておるのぅ!』

『夜一っ!何をいろりに教育したんだ!』

『ん?昼間なのにあんなこと言えるわけなかろう〜』

冗談でそういうと白哉坊はまた顔を真っ赤にして
『いろりに変な事を教え込むな!』




あれほど楽しい時間には一生出会えないだろう。









それから数ヶ月後。

朽木家の次代当主の婚約者が姿を消したあの日がやってきた―
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