白哉長編
□大切なものに
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次の日になってやっと夜一と合流したいろりは、渡された刑戦装束に着替えていた。
『よくやったのう、いろり。仕事が案外早く終わったもので歌の途中で結界の外に出てみた。
素晴らしい出来映えじゃった。外にも声が響いとったぞ!
それにしても似合うのう、そそられる』
いろりは顔を真っ赤にした。。
平穏な時間が流れていたそこに、また大きな霊圧同士のぶつかり合いが始まった。
『一護君ですね。副官クラスの方が相手でしょうか?
そして…朽木ルキアの捕り手の片方。』
死神として初めてもった友人、ルキアを連れ去った人に対しての怒りや苛立ちはいろりから感じられない。
いろりはルキアでも一護でもその相手でもない人のことを考えている。
顔も名前も思い出せないというのに、どうしても考えてしまう。
いろりは耐えられなくて、夜一に気持ちを吐露した。
『義姉さま…どうしてあたしを此処に連れてきたのですか?
この世界に来て以来、あたしの心はよくわからない雑念でいっぱい。このままあたしが戦いに出てもいいのでしょうか?
お願いします、隠さないでください。あたしの素性を教えてください!』
夜一は、いろりから顔を背けるようにいろりが先程迄見つめていた方を一瞬見て、立ち上がった。
『どうやら、儂と行動を共にするのは此処までのようじゃな。』
突き放すような科白が刺さった。
『義姉さま…?』
『九十九、おぬしも来るのじゃ』
『だが!』
と言おうとした九十九は、思い止まった。
夜一の表情を見てしまった。
心得た、と言うと音も立てずに立ち上がる。
『義姉さま、九十九、どうしてあたしを置いていくの?
あたしは義姉さまのためだけに生きて、義姉さまのためだけに動くって誓いました!』
いろりが怯えた勢いで捲し立てる。
『儂でなく、愛する者の為に生きるのじゃ。…いろり』
いろりは押し黙って顔を上げる。
そこにもう、二人の姿はない。
いろりはくたっと座り込んで、下を向いた。
しばらく何も考えられずぼんやり座っていたら、何か古い記憶が視界に割り込んできた。