立海

□Sweet(甘)
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「ブン太ー…」



屋上のドアを開ければ、見慣れた赤髪がすぐに目に入った。

ブン太。

…と、テニス部レギュラー陣の方々。

ブン太たちは、毎日ここで昼食をとっている。



「名前!」

「あっ、名前先輩じゃないっスかー」



パァッと傍目から見て分かるほどに顔を輝かせたブン太と、赤也がまず声をかけてきた。



ここにお邪魔するようになって、テニス部レギュラー達とも自然に話すようになった。





「名前、持ってきてくれたの?」

「う、うん、まあ…」

「っしゃ!」

「良かったじゃないか、丸井」



そういって微笑んだのは、幸村くんだ。



「丸井の奴、"今日は名前から初めて食いモンもらうんだ!"なんて言って朝練からずっとはりきっていたんだよ。余程嬉しかったんだろうね」

「ばっ、それを言うなよな、幸村くん!」



幸村くんはその美しい笑顔を、私に向けた。

恥ずかしそうに、ブン太は幸村くんに食ってかかってる。





ああ、今すぐ帰りたい。



こんな雰囲気のなか、黒こげを「はい、どうぞ!」なんて渡せるほど私の神経は図太くない。



でも…





「名前、ちょーだい!今食うから」





満面の笑顔で、手まで差し出されて

「やっぱり渡せない!」なんて言うほどの勇気も、私は持ち合わせていなかった。





「はい…」



恐る恐るクッキーをブン太の手に乗せれば、

ピキッと皆の雰囲気が凍りついたのが、何となく分かった。



「何スかそれ」

「え、クッキー…」

「クッキー!?」



答えれば、赤也は声をひっくり返して驚いた。

真田も、「丸井、危険だ、口にするな!」なんて言ってる。

…ハッキリ言って、失礼極まりない。



けど…完璧に、悪いのは私だ。





「ごめん、頑張って作ったんだけどさ…料理はどうも苦手で。やっぱり、食べなくていいから!」



私はそう言って、素早くブン太の手からクッキーを奪い取った。

…はずが、一瞬早く、ブン太にかわされてしまった。



「ちょっ、ブン太!?返してよ!」

「いーやーだ!」

「何でっ」

「せっかくもらったのに、みすみす返せるか、バカ!」

「バっ、バカって何よ!」

「俺はお前に何か作ってもらうの、夢だったんだよっ!」

「え…?」






ブン太の言葉に、少し驚く。

…と、隣で含んだような笑い声が聞こえた。



「そういえばお前さんのクラスで調理実習がある度、期待してはもらえずに落ち込んでたのうブンちゃんは」



仁王だった。



「あー、そんな事もありましたねえ」



なんて、赤也まで。





「そう、だったの…」

「わりーかよ」

「う、ううん…ごめん」





まさか、そんなに楽しみにしてくれてたなんて。

全然知らなかった。

なのに私は…



「謝んなって!今日作ってくれたんだから。サンキューな、名前」

「でも、それ失敗したし…」

「んな事は関係ねーの!」






その後ブン太は、皆の前でクッキーを食べてくれた。





「どう?」

「…焦げてる」

「だよねー…」

「でも…」

「?」

「今まで貰ったどんな物より嬉しい」

「…!」





ブン太の言葉に、 私の方が喜びました。











「次はもっと、美味しいの作るからね!」

「おー、楽しみにしてるぜい」








Fin.

(NEXT⇒あとがき)



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