立海

□お菓子の王女様(甘)
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"お菓子の王女様"―…それが私のあだ名。



私はクラスの皆から、そう呼ばれている。

理由は簡単。



私が、いつもお菓子を持ち歩いているから。

だからお腹空いたーって子は決まって私の所に来る。





「おーじょっさまー!」





こんな風に。








「お菓子!」

「またブン太!?」





腹減ったー!なんて無邪気に私の机の横に座り込むのは…彼、丸井ブン太。

赤い髪の毛と紫の瞳のおかげでどこに居ても目立つ、男子テニス部のレギュラー。



「今日は何くれんのー?」

「何がいいの?」

「んとー…ガム!」

「そればっかじゃん…」

「いいだろい?大好物なんだし」

「はいはい…」



もう…と言いながらガムを渡せば、弾けるようなブン太の笑顔。



「サンキュ!」





ある日「腹減ったー死ぬー」なんて騒いでたブン太に、たまたま持っていた飴をあげたのが全ての始まり。

それが今や、私にお菓子をねだりに来るのが彼の日課になっていると言っても過言ではない。

おかげで始めは"丸井くん"だった呼び名が、"ブン太"になるくらいには仲良くなったけど。



自分の席に戻ったブン太の背中を見送って、ほー…っとため息をつく。







…―お菓子の王女様。

名前はなんか可愛いけど、正直王女に君臨してるのも楽じゃない。

毎日お菓子買って、持って行ったかと思えば全部なくなって…その繰り返し。



友達は「名前って優しいよね!」なんてよく言ってくれる。

まあ人の為にお菓子買って配ってるようなもんだもん、誰だってそう思うよね。

確かに私のあげたお菓子で人が喜ぶのを見るのは好きだ。

だけど…私はそこまで純粋に優しい訳じゃない。

だって私がお菓子を毎日持ってきてるのには…理由があるから。



…丸井ブン太。そう、あいつが"理由"。

毎日部活で頑張ってるブン太を見て、少しでも力になりたいなんて身勝手な事を思った。

そして、あわよくば私の事を見て欲しい…そんな事も思った。

当然その時ブン太は、私なんて認識もしてなかっただろうに。



だから飴をあげたあの日、"王女様"になろうと決めた。

本当の気持ちがバレないように皆にもお菓子を配って。

ブン太が来ると、嬉しくて。

でも気付かれないように「またあ?」なんて嫌がってるふりして。

本音を隠して王女様になっている自分が笑えてくる。

でも…私には、こうする事しか出来ないもん。









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