立海

□必死な天才とプレゼント(ほのぼの)
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「丸井くん・・・私、丸井くんの事が好きなの!」

「あー、うん・・・」

「私と付き合って欲しいの!」

「あー・・・」

「お願いっ」

「うー・・・」

「丸井くん?・・・ちょっと、聞いてるの!?」

「おー・・・」

「・・・ひどいっ!決死の告白を!!」










         バシンッ









「いって!」











 左頬の尋常じゃない痛みに我に返れば・・・なぜだか知らないけど、

 目の前には、綺麗にラッピングされたクッキー。と、走り去ってく女子。










「丸井先輩、見ーちゃった」

「見ーちゃった」






 そして木の陰からひょっこり出てきた後輩と・・・銀髪のタメ。


 つーか何だそのテンション。

 仁王が“見ーちゃった”とか言うと、マジで引くわ。







「丸井先輩、どんだけなんスか今の」

「ちょっと待て。今何があった?」




 目の前の2人に、手っ取り早いから聞いてみる。


「はぁ!?」

 赤也の間抜けな声が辺りに響いた。









「ちょっ、丸井先輩本気っスか?」

「何が」

「今あの子めちゃくちゃ必死に告白してたんスよ?まさかの聞いてない!?」

「“丸井くん・・・私、丸井くんの事が好きなの!”」




 うわ、仁王の声が化けた。

 つーか女子の声も出せんのかよ、あいつ。

 犯罪に手染めないか、ホント危ねーな、


 じゃなくて・・・違う、今はそこじゃない。







「俺・・・今告られてた?」

「うっわーマジ最低っスね、先輩。
 ちゃっかりクッキーだけはもらっといてシカトっスかー」








 いちいちカンに触るな、こいつ。一発やっとくか。


 まぁ赤也(と仁王)曰く

 さっき走り去ってった女子生徒に俺は告られてたみたいで。

 最初にくれたクッキーは受け取って

 あとはテキトーに返事してたら引っぱたかれた・・・らしい。















「女子の必死な気持ちを無駄にするなんて鬼っスねー」

「まったくぜよ」


 こいつら、まだ言ってやがる・・・


「あの子かわいそー」

「今頃泣いとるんじゃないかのぅ・・・」


 うっせーな・・・


「つーか俺には、んな事より大事な用が・・・」



 うっわ、やべぇ。

 言っちまった。


 言ってから、モーレツに後悔した。

 奇跡でも偶然でも何でもいいから聞き逃してくれと、神様に祈りつつ。


「ほぅ・・・大事な用」

「水くさいっスね、教えて下さいよ、先輩〜」







 まぁ、俺の願いはあっさり神様に無視されたわけで。


 マジでいんのかな、神様って。














「で、何なんじゃ?用事って」



 ・・・こいつら、ぜってー俺が吐かねーと帰んねぇな。




「ほれ、言いんしゃい」

「・・・お前ら地獄行きだぞ。天国行けねーぞ」

「死後は興味ないのぅ」

「ほーら、もったいぶらずにさっさと言って下さいよ〜」



「だああーっ!!あ〜〜もうっ」





 無理。

 俺は観念して、2人に口を割ることにした。




















 実は・・・













 明日は、名前の誕生日だ。

 名前は俺の彼女、だ。

 俺が釣り合ってっかは分かんねーけど。



 んで、何か名前の喜ぶよーなモンをやりたいな、なんて。

 そう思い立ったのが、先週。

 だけどその肝心の“何か”が思いつかない。

 考えるだけで日は過ぎて、今日になったっつー訳。















「ほー、彼女へのプレゼントか」

「一応ちゃんと“彼氏”やってたんスね、丸井先輩」


「一応ってなんだよバカ也」

「なっ・・・バカ也はないでしょ、デブン太先輩!」

「んだとこの野郎!」











        ベチーン








「いって!!」







 何事かと思えば、仁王が手に持ってたプリントの束で

 俺の後頭部をぶったたいたとこだった。









「なーにすんだよ、アホ」




 睨んでみたけど、仁王は平然と口角を上げた。




「ブンちゃん、いいんか?」

「は?」

「もう放課後じゃ。
 プレゼント買うなら今しかもうないと思うんじゃがのぅ・・・
 こんなヤツに構っとんのはもったないぜよ」

「こんなヤツって・・・仁王先輩までひどいっスよ〜」










 赤也がわめいてっけどそれは置いといて・・・だ。


 仁王の言葉で、瞬時に現実に引き戻された。

 ・・・やっべぇ。名前の誕生日が明日っつーことは・・・

 当然渡すのも明日な訳で。

 今日買わないと間に合わねーじゃん!








 あーでも待て、何買えばいいんだ?

 それを一週間も前から悩んでて・・・

 つーか何でまだ決まってないんだよ、俺のバカ!

 バカ也とか言ってらんねーな・・・







 とにかくアレだ。

 行ってみて決めるに限る!

 そうと決まりゃ・・・









「あー、ちょっと待ちんしゃい」

「あ!?」



 店に行こうと足を踏み出した瞬間、仁王に呼び止められた。






「・・・んだよ」

「プレゼントは“心”が大切じゃ。物はカンケーないぜよ」

「そうっスよ先輩!いくら丸井先輩の趣味が悪くても・・・
 心さえ伝われば、名前先輩は喜んでくれますよ!!」

「・・・うっせー、余計なお世話!!」








 とりあえず2人に叫んでから―――・・・俺は、走り出す。




 趣味悪いって何だよ・・・やっぱバカ也だ、アイツ。

 だけど・・・まぁ、あいつらが言ってんの、分かんねー訳でもない、けど。

 要は気持ちだ、気持ち!

 明日は俺が、天才的に名前を喜ばせるって決めたんだ!














 その時、あいつらが何の話してたかなんて、俺の耳には届いてなかった。

 アイツ・・・名前を喜ばせんのに、必死だったし。



























 次の日―――――・・・

 名前は笑顔で、“ありがとう”って言ってくれた。



 バカで決断力ねーけど・・・

 まぁ、“成功”だったわけで。



 ・・・喜んでくれて、サンキュー。

























《おー、行った行った》

《部活ん時より走るの速くないっスか?》

《まぁブンちゃんは・・・好きな女の事になると必死だからのぅ》

《そうっスね!》






 ・・・あいつらが何の話してたかなんて


 俺の耳には届いてなかった。
















END

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