立海

□未送信のメール(切甘)
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 夕方。













 下校の音楽が流れて、部活が終わった。











 私はというと、まだ静かな教室に1人残っている。

 手には・・・打ち終わって、あとは送信するだけのメール画面を開いた携帯。






 私は、部活動に入っていない。

 いわゆる、帰宅部ってヤツだ。


 それなのに、どうしてこんな時間まで学校に残っているか。














 それは・・・

































「あ、いた」




























 夕日に照らされて、笑顔が輝いている












 彼、のため。





 ううん、彼のためなんて言ったら、少し図々しいかもね。

 私が、勝手に待ってるだけなんだから。






















 もう一度、視線をテニスコートの方へ向ける。

 耳を済ませば、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 その中心にいる人―――――・・・







    ・・・―――――丸井 ブン太。


























 1年前から、私とブン太は付き合っている。




 皆も快く祝福してくれて、嫌がらせなんかも全くなかった。

 すごく嬉しかった。











 でも・・・















 私はハッキリ言って、内気だ。

 消極的、とも言う。




 ブン太の事は、大好きだ。

 だけど・・・







 手つないだり、一緒に帰ったり、デートしたり





 恋人らしいこと、この1年間、何もしていない。













 ブン太はこれで満足なのかな、なんて。

 よく思う。











 満足な訳、ないよね。

 付き合ってるのに、友達みたい。

 絶対“恋人”の域には入ってない。







 それでよく、我慢してくれていたと思う。

 きっと、私の性格を知ってるから、無理に強要してこないんだ。


 そこからもブン太の優しさが感じ取れて、胸があったかくなる。































 だけど今日






 同じクラスの仁王くんと部活に行くブン太を見て、










 ふと、










 一緒に帰りたい












 なんて思った。













 その気持ちはだんだん膨らむばかりで。


















 気が付けば、3時間もの間、教室でブン太を待っていた。














 私とブン太は、いつもは別々に帰っている。

 だから今日だって、私が待っているなんてこれっぽっちも考えてないだろう。







 そう思って、メールを打った。











“名前です。良かったら、今日一緒に帰らない?

    帰りたいな、って思ったんだ。無理なときはいいからね!



            出来れば、返事待ってます”
















 あとは、送信ボタンを押すだけ。

 そうすれば、このメールはブン太の携帯に行く。












 だけど




 私は、その動作がどうしても出来ずにいた。
















 こんなメール急にもらって、ブン太は迷惑じゃないだろうか。

 突然一緒に帰ろうなんて、失礼かな。

 他のテニス部の人と一緒に帰りたいんじゃないかな。










 色んな言葉が頭の中をぐるぐる回る。

























 ふと窓の外を見れば、テニスバッグをかかえた部員たちが

 ぞろぞろと帰っていくところだ。






 今メールを送らなければ、ブン太は帰ってしまう。










 どうしよう・・・

 早く・・・!

 でも・・・


















 私はどうしても、送信できなかった。

 送信ボタンに親指を乗せたまま、ハーッとため息をつく。





























 馬鹿みたい。

 せっかく、待ってたのに。

 もっと堂々としていられたら良かったのに。


 何だかハッキリ出来ない自分に、無性にイライラした。

 じわり、と涙が滲んできた。








 泣く事なんて、ないのに。

 だけど、すごく、すごく悔しくて。
































 その時だった。
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