立海

□雨上がり(ほのぼの)
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「ん・・・」







 うっすら目を開けた。

 そしたら、天井が見える。


 ぐるっと辺りを見回せば、保健室だってことが分かった。

 私、倒れたんだ・・・



 保健室には、誰もいない。




 このまま待ってるべきか、教室に戻るべきか・・・どうしよう。

 数分そうやって迷っていた。
















 その時だった。














 バンッ





 すごい勢いで保健室のドアが開いた。





「名字!!」


 声の主はすぐに分かった。

















「仁、王・・・?」

「名字!目覚ましとったか!」





 仁王 雅治。私の幼馴染。

 昔から共働きだった私の両親は、よく私を隣の仁王の家に預けていた。


 そのせいで仁王とはよくしゃべるようになって

 クラスは違うけど、今もよく家に行き来してる。











「幸村から、名字が倒れたって聞いて・・・びっくりして飛んできたぜよ」

「ははっ」

「無事でなによりじゃ」

「大丈夫だよ!」



 なるほど、クラスメイトの幸村くんが、仁王に教えたのか。





 それにしても仁王、ホントに“飛んできた”って感じだった。

 思い出すと、少しおかしくて。








「何笑っとんじゃ」




 仁王が呆れたように言う。

「いや、仁王がおかしくて・・・
 普段詐欺師なんて呼ばれてるのに、全然ポーカーフェイスじゃなかったなぁ〜って。
 ははっ」


「それとこれとは別じゃ・・・で、なんで倒れたんじゃ?」


「んー・・・昨日雨の中走って帰って、
 カギ忘れて家の前で夜8時まで待機してたのが原因かも」

「何やってるぜよ・・・顔色悪い。ちゃんと食べたか?」

「いや、家入ったのが8時で、宿題に追われて・・・昨日は何も食べてない」

「馬鹿!!!」







 思いっきりどなられた。

 ちょっとびっくり。




「仁王!?」




「ちょっと待っとれ」

「え、ちょっ、仁王〜!」
















 そう言い残して仁王は、さっさと保健室を出て行ってしまった。



 1人取り残された私。


 どうしようか迷ったけど

 とりあえず言われた通り、その場で仁王が来るまで待機していることに決めた。























「ほれ」





 戻ってきた仁王は・・・

 私が寝ているベッドの布団の上に、バラバラと何かを置いた。








 チョコレート、ポッキー、ガム


 色とりどりの、可愛らしい――――








「お、かし・・・?」

「ブンちゃんにもらってきた。食え」

「食えって・・・」













 布団に置かれたお菓子からは

 今も甘い匂いが漂ってきている。

 こんなにたくさんのお菓子常備してるなんて、丸井くんさすが。




「ちゃんと食わないと栄養回らんじゃろ。こんなのでもないよりはマシじゃ。
 ほれ、食べんしゃい」

「仁王、優しいんだね。ってゆーか、仁王の方がいっつも食べてなさそうなのに・・・」

「うるさいのぅ」




 そう言って顔をしかめた仁王がまたおかしくて、笑った。

 普段の“詐欺師”って言われてる仁王からは、想像もつかないような表情、言動。


 私にだけ見せてくれてるって思うと・・・なんか嬉しかった。

 それを考えれば、倒れたのも良かったかもしれない・・・なんて思ったりする。

 不謹慎だけどね。




 仁王が持ってきたお菓子を口に入れる。それはチョコレートで、すごく甘くて、でも・・・






「おいしいっ」

「良かったのぅ」


 仁王と過ごしてるこの時間の方が十分甘いな・・・なんて、思ってみたり。


 にこにこして私を見てる仁王。












 今は言えない。けど・・・


 元気になったら、君に伝えたい。















 仁王・・・大好き!































 幸村から名字が倒れたと聞いて、とにかく驚いた。

 いつも元気な名字しか想像できない俺には、かなりショックだった。


 部活が終わって吹っ飛んでいけば、元気そうな名字の姿があって、ホッとした。

 聞けば、昨日雨に降られ続けた上に、飯も食ってないそう。

 そりゃ倒れるはずじゃ・・・


 あわててブンちゃんに訳を話して、お菓子をもらってきた。




「仁王、頑張れよっ☆」

 去り際、ブンちゃんが満面の笑顔で行った言葉。

 ・・・言葉の意味合いは、なんとなく分かる。



 ブンちゃんだけは、俺の気持ちに気づいちょる。





 だけど・・・今は言わんぜよ。
















 いつかお前さんが元気になったら・・・その時に、改めて話すつもりじゃ。


 名字――――
















 好いとうよ。















END
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