短編 -other-

□true...(白石/切ほのぼの)
2ページ/6ページ
















 ――――《聖書》



















 いつからそう呼ばれ始めたかなんて…




 正直よう覚えてへん。




 ただ気が付けばそう呼ばれとって、

 皆は俺にぴったりの名前や言うとった。




 別に、不満なんやない。






 せやけど…





 たった1人でいい。


 1人でいいから



















 俺の全てを


















 見て欲しかったんや…



























 真実は、酷く脆い。












「何でも完璧な所とか憧れで、カッコ良いなって思ってたんです。

 ずっと大好きでした!!」


「…おおきに」



 せやけど今は部活に熱中したいし、

 恋愛には興味あらへんのや。



 …だから、ごめんな。
















 ――付き合って下さい!!




 そう言ってきた相手に対して、毎回吐いている言葉を口にすれば

 彼女は涙目になりながら去って行った。



「…はぁ」



 彼女の背中を見送ってから、俺もその場を後にした。



































 告白の余韻を引きずりながら、1人廊下を歩く。




















――完璧な所とか…










 完璧…か。


 結局俺の魅力なんて、それだけやもんな。

 んな事とっくの昔に分かってんねん。



















 そうして歩いとるうちに俺のクラスの前に差し掛かって、何気なく中を覗いた。

















(……??)













 教室の中には、人影。




 それは、見覚えのある人のモンで。













「名字さん…」













 声をかけるまでに、大した時間は要さへんかった。













「白、石…くん…」


 


 名字さんは、今年四天宝寺に来た転校生。

 別に俺とは、そんなに親密な仲やない。

 せやから、放って帰ることだって出来た。













 なのに…













 ダメだ、話しかけないと。













 何故だかそう感じたんや。
























「こんな時間に何しとんねん。もう学校閉まるで?」

「…」



 俺を見る名字さんの表情は辛そうやった。













 同時に俺の胸まで苦しくなって。













「ねぇ…努力しても叶わない時って…どうすればいいのかなぁ…?」

「えっ…?」













 名字さんの口をついてでた言葉も、同じく辛そうやった。













「そ、れは…」

「…ごめん」



























 諦めたような名字さんの口調に、悲しみを覚えた。













 やっぱり。




 “何でも完璧な聖書”




 には、そないな質問しても答えられへん思うたんやろ?













 けど…













「そんな時には、休息も必要や。頭冷やしてまた頑張ればええねん」














 俺が言っても、説得力あらへんかもな。













 せやけど、これは実際に俺がやって来た事やから。













 伝えても、バチ当たらへんやろ…?

















「休息…」

「せや。頑張り過ぎて前が見えなくなってんのや。立ち止まれば、見えてくんねん」













 名字さんの事はよう分からへん。



 せやけど、一度立ち止まる事が必要やと、俺のどこかで感じ取った。



























「……」













「遅くならんよう帰りや。気ぃつけてな」



























 名字さんの沈黙に













これ以上の長居は邪魔なんやと悟って、俺はそう言って教室を出た。



























 脳裏には、名字さんの表情が焼き付いて離れへん。





 なぁ、お願いやから…










 そないな顔、せえへんで…









































背後からは



























小さな嗚咽が













聞こえた

















To be continued...

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ