短編 -other-

□距離、ふたり(平古場/切甘)
1ページ/2ページ













「凛」

「名前…!?」






 背後から静かに声をかければ

 凛は驚いたように振り返った。







「やー、何で…」

「久しぶり」

「…おー」








 凛が戸惑ってるのが、手に取るように伝わってくる。






 それはそうだよね。


 ずっと、まともに話してなんかなかったんだから。








「覚えてる?昔、よくここに来てたよね」

「…忘れる訳ねーだろ…」

「え?」

「…いや、こっちの話さー」





 ぽつりと呟いた凛が不思議で、凛を見上げる。




 “見上げる”―…






 昔はほとんど変わらなかったのに

 いつの間にか、凛の方がずっと背が高くなっている。



 その事に、時の流れを感じた。




 目の前で、サラサラと風になびく金髪。







「キレイだね」

「…へ?」

「髪」

「あー…」





 私が話振って

 凛がそっけなく返して。






 懐かしいな、このテンポ。











 そんな事を思っていたら


 不意に、凛がこっちを見た。

 久々にぶつかり合う視線。








「やーの…」

「え?」

「やーの方がキレイさー」

「は!?」






 突然の言葉に、顔が熱くなるのが分かった。


 思わず、視線を逸らす。






「な、何お世辞言って…」

「嘘じゃねーし」





 いつも以上に強い凛の口調。


 それに、少し驚いた。







「何、で…」

「あい?」

「…何でもない」







 何で…




 もう終わりにしようって

 思ってたのに…








 何で




 そんなに嬉しい言葉をくれるの…












 だから…だから諦めきれないんだよ。










 だからいつまでも、






 凛が








 好きなんだよ…












 想ってたって、辛いだけなのに。










「やーは…遠くなったさー」

「…え?」

「わんが、届かねー位」






 突然そんな言葉を発した凛に驚いて


 俯き気味だった視線を移せば







 凛は





 遠くを見ていた。



 その姿を見て、視界がぼやけた。


 …馬鹿。






「そ、れは…」





 それは、凛の方だよ…




 前は、何をするのにでも一緒だった。

 いつも、隣に凛がいて。

 それが当たり前だった。



 でも、進級して

 凛はどんどん人気者になっていって






 何時の間にか







 もう、私の隣に凛はいなかった。












 だから、遠くなったのは私じゃない。





 遠くなったのは…










「…ッ」

「!?…な、何で泣くんばぁ」








 …やっぱり、馬鹿だ。







 昔からそうだったよね。


 変なとこは鋭いくせに、

 こういう時は、全然気付かなくて…









「ば…か…」

「は!?」

「“ふらー”って意味だよ!凛のふらー!」

「なっ、何言って…」

「凛に、そんな事…言われたくなかっ、た…」






 どうしよう。



 止めたいのに。

 頬を伝わって落ちる涙は、一向に止まらなくて。











「おい、名前…」



「いたかったよ、凛の隣に。いて欲しかった…凛に。

 でも、凛が離れて行ったんだよ…」









 私は、いつだって待ってた。



 凛はきっと、戻ってきてくれるって。


 なのに…






「凛が…戻ってきてくれなかったんだよ…」

「何言ってるんばぁ、やーが離れて行ったんさー!」

「違う!凛だよ!私は、ずっとずっと待ってた…」





 その笑顔を、私じゃなくて他の人たちに向けるようになって



 凛の中で



 私はもう、薄れていたんでしょ…?







 私はこんなにも











「好き、なのに…ッ」



















 辺りに聞こえるのは













 波の音と


 私の嗚咽だけ。










.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ