妄想小説 短編

□サキヨミ 4
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待ち合わせには30分も早く着いてしまった。

お店の窓にうつる自分を見て、少し恥ずかしくなる。

昨日買った、シフォンワンピが風に揺れる。
普段はあまりしない化粧もちょっとだけしてみたり、ママに髪を巻いてもらったり。


「…気合いれすぎたかな」

やりすぎたかもしれない後悔を感じつつ、時計を見る。
まだあと20分。


何度も前髪を確認したりしていると、後ろから声をかけられる。

振り向くと、知らない男の人が立っていた。

「待ち合わせ?」


…誰?


「さっきから見てたけどさ、相手来ないみたいだしさあ、俺とちょっとデートしない?」



あ!
ナンパか。
こんな朝からそんなことあるの?


「あ、いや、これから来るので、無理です」


「そんな嘘つかなくたっていいじゃん、行こうよ。
君かわいいからさ、すげー目立ってたんだぜ?
待たせるような奴ほっといてさ!ねっ!?」


その男の人は無理矢理手を掴んで引っ張る。

ちょっと!
何勝手に触ってんのよ!!

手を振りほどこうとするけど、なかなか離してくれない。


うー…!
南野くん、早く来てえ…!


そう思った時。
ふっと掴んでた手が離れた。

「いててててて!!!!」

南野くんが、男の人の手を掴んでいる。


「汚い手で触るな」


そう言って手を払うと、男の人が後ろにひっくり返った。



南野くんのあんな怖い顔初めてみた。
意外にワイルドなのね…。

男の人がその場から離れて行くと、南野くんは振り返ってにっこり笑った。

「待たせてごめんね、大丈夫だった?」


「あ、うん、大丈夫!ありがとう。
私がちょっと早く来すぎちゃったから…」


そう言うと、南野くんは手を繋いでくれた。


「今日はいつもとちょっと違うね」



「かわいいよ」



南野くんの言葉に顔が熱くなる。
そしてまた嬉しくなって、自然と頬が緩む。


よかった。



電車に揺られて、水族館に向かった。
電車の中で、昨日の買い物の話をした。
南野くんはにこにこ聞いてくれた。

「その服、よく似合ってるよ」

褒めてくれるのは嬉しいんだけど、どーにも褒められなれてないせいか、恥ずかしくなってしまう。

40分くらい電車に揺られ、駅につくと潮の香りが電車のドアから入ってくる。


「ねえ!海!!」

ついテンションが高くなってしまう。
南野くんも笑顔で頷く。

少しだけ早足で駅を出ると、水族館の向こうに海が見えた。

水族館の中は結構混んでいて、南野くんは繋いだ手に力を入れた。

「はぐれないでね」

「うん」

私も手に力を入れ返す。



たくさんの水槽の前で、はしゃぐ私に南野くんは時々目を細めて微笑んでいた。

私は楽しいけど、南野くんは楽しいかなあ。
少し心配になるけど、南野くんの笑顔を見ると安心する。

イルカのショーもペンギンも、クラゲもラッコもみんなかわいくて、本当に楽しかった。



水族館を出るころ、まだ日は高くて、併設されてる小さい遊園地に行った。




でも絶叫系も怖い系も苦手な私は、観覧車くらいしか乗れるのがなかった。



観覧車に乗り込んでから、ふと気がついた。

これ、密室二人きりじゃない。
なんか自分から誘ったみたいで…いや、誘ったんだけど、そういうつもりじゃなくてですね…。


「河嶋さん、ちょっとこっち来てくれる?」

南野くんの言葉に心臓が飛び出そうになる。
平静を装って、南野くんの横に座る。

「目、つぶって」


いきなりですか!?
驚きつつもぎゅっと目をつぶった。

南野くんの腕が私の首にあたる。
心臓がありえないくらいばくばくしている。


「いいよ、目を開けて」


へ?
あれ?

きょとんとしてると、胸元にキラリと光るものがあった。


「あ、これ…」


イルカのチャームのネックレス。
さっきお土産やさんで、私がかわいいって言ってたやつだ。



「初デートの記念に」


南野くんはそう言って笑った。
私はすっごく嬉しくって、ついウルウルしてしまった。

「ありがと〜…嬉しいよぉ〜。大事にする〜!」


南野くんは頭を撫でてくれた。
こんなサプライズしてくれるなんて、嬉しい。
一生忘れられないよ。



「本当嬉しい、ありがとう!!
まさかこんなプレゼントしてくれるなんて。
目、つぶってって言うから、私てっきり…」


そこまで言って、しまったと思った。
すっごい恥ずかしい。
顔が一気に赤くなる。
こんなこと、南野くんが見逃すはずない。

ちらっと見ると、やっぱりちょっと意地悪な顔している。


「…てっきり…何だと思ったのかな?」


やっぱり!!

うー悔しい。

「何でもないっ」

「ふーん…」

南野くんはそう言うと、顔を近づけてキスをした。

「あたり?」


固まる私ににっこりと微笑む。
私は悔しい気持ちと恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになった。


悔しいけど。


「…あたり」

そう答えた後の南野くんの笑顔がかわいかったから、許す。
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