妄想小説 短編

□サキヨミ 4
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「そういえば、南野くんて、何で皆に蔵馬って呼ばれてるの?」


観覧車がてっぺんにきた時にふと昨日のことを思い出して聞いてみた。

南野くんはちょっとびっくりした後、少し考えている。

あんまり言いたくない話なのかしら?

「あ、言いたくないならいいんだけど…」

そう言うと、南野くんは急に真剣な顔になった。


「いや、ちゃんと話すよ。いつか話すつもりだったしね。
信じてもらえるかわからないけど…」


観覧車の中にピリッとした空気が流れる。


「俺は妖怪なんだ」



南野くんの言葉に反応ができない。
妖怪?
どういう意味?


「俺は元々蔵馬という名前の妖怪で、この体が胎児の時に融合したんだ」


「だから、そのことを知ってる奴らは大体蔵馬と呼ぶんだ。
海藤は知ってるが、南野と呼んでいるけどね」



…頭が真っ白になるというのはこういうことを言うのか。
南野くんの言葉は聞こえているのに、夢の中にいる感覚。



「…怖い?」


南野くんがたずねる。


ううん、怖いとか…そういうんじゃない。


首を横に振ると、南野くんは少しだけ笑った。


「…南野くんは、人間とは違うの?」


「体は人間だよ。中身が妖怪なんだ」


「…変身したりするの?」


「ん…まあする時もある…かな」



「お母さんは?知ってるの?」


「いや、知らないよ」



南野くんは私の質問にちゃんと答えてくれる。
嘘はいってないと思うし、冗談でもないと思う。

それに。
南野くんが幽助くんとかと友達なのも、力のこと知ってるのも納得がいく。



「…まだ、正直混乱してるけど…。
でも、南野くんは南野くんで、蔵馬っていう妖怪でもあるってことだよね?」


「そうだよ」



そっか。
なら別に大した問題じゃないよね。
うん。
でも…。


「…もう1つ聞いてもいい?」


「うん」




「私達の子どもは妖怪なのかな、人間なのかな?」




私の質問に南野くんは固まった。
そして。



「あはははは!
そっそれはわからないけど…っ!
まっまさかそうくるとは!
あははは!!!」


南野くんがお腹を抱えて笑いだしてしまった。

なんで?
なんでそんなに笑うの?
大事なことよ?



「あ、ご、ごめん。
いや、てっきり怖がるか、信用されないかどっちかかなあと思ってたから…。
まさか、こっ…子どもの心配されるとは…っ」



そ、そんなに笑うことないじゃない。



あんなにシリアスだった雰囲気がぶち壊しになってしまった。
私のせいなのかもしれないけど。




その時、観覧車のドアが開いた。
え!?もう終わり?



南野くんがチケットを出して、もう一周って言ってくれた。
並んでる人もいなかったし、係員の人も笑顔でまたドアを閉めてくれた。




「河嶋さん、信じてくれてありがとう」


観覧車が少し進んでから、南野くんは言った。


「ううん、教えてくれてありがとう」


そう言うと、南野くんはまた頭を撫でてくれた。


「そういえば、蔵馬の南野くんはどんな感じなの?
あ、違うか。
えっと…、変身した南野くんはどんなの?」


南野くんはまた少し考えてる。


怖いのかな?
確かに怪獣みたいだったらどうしよう!


「もしかしてすっごい大きかったりする?
ゴジラみたい?」

私の疑問に南野くんはまた笑った。


「いや、一応人の形だからそんなにびっくりはしないと思うけど…。
もう少し人目のないところで、今度見せてあげるよ」


あ、そっか。
密室とはいえ、丸見えっちゃあ丸見えだもんね。


「じゃあ、約束ね」


南野くんは私の出した小指に笑顔で小指を絡ませてくれた。



「それにしても」


南野くんは私の手を握って微笑んだ。


「まさか河嶋さんが俺との子供を産んでくれる気でいたとはね」



「へえっ!?」


あ、あれか!
いや、そんな、いや、そりゃいつかはとは思ってるけど、そういう意味じゃ…。

いや、そういう意味なんだけど、ちょっとちがくて!


頭の中で言い訳にならない言い訳をしていると、南野くんは笑った。



「嬉しいよ。
俺の話を聞いてもそう思ってくれたのが」


そう言って、キスをしてくれた。




「…でも子どもはまだ先かな」


南野くんはまた意地悪な顔になって笑っている。



「そんなに先じゃなくてもいいんだけど」


私がそう言うと、南野くんは顔を赤くした。

ん?

「どうしたの?」



南野くんは聞いても答えない。
自分だけずるい。
なんか変なこと言ったかなあ…。




「お疲れさまでーす」


あ、二周目が終わってた。


南野くんの手を借りて観覧車から降りる。


「あっという間だったね」

「うん」


観覧車を降りると、さっきまで高かった太陽が横に傾いている。


「暗くなる前に帰ろうか」

「うん、もう少し居たかったけど」


そう言うと南野くんも頷いた。


「また来ようね」


南野くんの言葉に私も頷いた。
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