妄想小説 短編

□一方通行 3
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6:00

携帯のアラームが鳴る。

今日は皆で旅行に行く日。香はちょっとした不安を感じながらも、楽しみでワクワクしている。
その証拠にアラームが鳴る1時間前にはすでにベッドから起きている。


後は約束の7時まで髪を結んだり、化粧をしたり、ゆっくり準備するだけだ。


麦茶をコップに注いで、鏡の前に置いた。

コップはすでに汗をかいている。

「今日もあっついな〜」

そう言って、前髪をクリップでとめ、日焼け止めを塗った。


マスカラをつけ終わった時、携帯が鳴った。

蔵馬からだった。


「もしもし?」

「おはよう。準備できた?」

「あ、あと最後の仕上げが残ってるけど。だいたい終わりましたー」

マスカラを戻して、リップを開ける。

「最後の仕上げ?」

蔵馬は不思議そうに聞いた。

「あ、お化粧の話だよー。あとちょっとで変身完了ってこと」

笑いながら答える。
電話の向こうで蔵馬も笑った。

「女の子は忙しいですね」
「まあね〜。すっぴんで綺麗な蔵馬にはわからないでしょうけどっ」

香は笑ったが、蔵馬は笑わなかった。

「また香はそのネタを…」
そう呟いてタメ息をついた。

「あれ?うけなかった?」
「同じネタじゃ笑いませんよ」

やや不機嫌そうに蔵馬は返す。

「ごめんごめん。怒んないで〜」

「そんなことより、変身完了したら出てきて下さいね?下で待ってますから」


香は驚く。

「へえっ!?」

すっとんきょうな声に蔵馬は笑う。
香は慌てて窓を開ける。

アパートの前に旅行バッグを持った蔵馬が立っていた。
携帯で話しながら、こちらに手を振った。


「それで完了ですか?クリップついてますよ」

そう言いながら、前髪を触って見せた。


「あっ!!ちがくて!これはっ!」

慌ててクリップを外して前髪を直す。
蔵馬は香の慌てっぷりを見てクスクスと笑った。



「ちょっと!ちょっと待ってて!行くからっ!」


窓を閉めて、鏡に向かい、グロスをつけて前髪を整える。
化粧ポーチをバッグに突っ込み、サンダルを履いて慌てて玄関を出た。


アパートの前にはさっきと同じ笑顔の蔵馬がいた。


「お待たせしましたっ…!」

少し息を切らした香に蔵馬はお茶のペットボトルを渡した。


「別に急がなくて良かったのに」

「え?私が遅かったから迎えに来たんじゃないの?」

「違いますよ。
またギリギリになって行かないなんて言われたら困りますからね。」

そう笑って香の旅行バッグを抱えた。

「あ、バッグいいよ。自分で持つからっ」

そう言うと蔵馬は自分のバッグを香に渡した。

「俺のが軽いから」

そう言って歩き始めた。


「ありがと…。でもそれ重いでしょ?」

蔵馬の後を小走りで追いかけた。

「重いですね。
一体二泊三日で何持ってきたんですか?」

蔵馬は全然重たそうにはせずに笑って言った。

「女の子は色々あるんですー」

香も笑って言った。


「元気そうで良かった。
楽しみましょうね」

蔵馬の言葉に香は心がほわっと温かくなった気がした。
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