妄想小説 短編

□サキヨミ 2
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「香ー?起きなさーい!」


ママの声に目が覚める。
身体がだるい。

昨日帰ってからすぐ布団に入ったのになかなか寝つけなかった。
身体は疲れてたはずなのに、頭が妙に冴えてて…。


ふと昨日のことを思い出すと、顔が熱くなった。


「夢じゃ…ないんだよね」

南野くんが私にキスした。
あれは本当?
夢の中の出来事みたいで、ふわふわする。



「香ー?遅刻するよー?」

ママの言葉に慌ててベッドを出た。

制服に着替えて、顔を洗って、ご飯を食べずに家を出た。




教室に入ったとたん、チャイムがなった。


「よかった…間に合った」

はーと息を吐いて机に伏せる。
マキは休んでるみたいだ。
昨日の今日だしな。

本当に無事でよかったー。



一限が終わると、クラスの男の子が話しかけてきた。

「河嶋さん、呼んでるよ?」

彼の指先を目で追うと、後ろのドアの所で、南野くんが手を振っていた。


「みっ南野くん!!」


ガタンと椅子の音をたてて立ち上がる。
クラスの子達の視線が痛い気がする。

…しまった。


こそこそと南野くんに近づく。

「おはよう、河嶋さん」

にっこり笑う南野くんに目がチカチカする。

「あ、おはよう、南野くん…。えと…何?」

なるべく目を合わさないように話す。

「つれないな。
調子はどう?眠れた?」

南野くんは笑って聞いた。なんで平気なの?
私はこんなにどきどきして、頭がくらくらして、顔が真っ赤なのに。


「うん、眠れた…。あ、えと。昨日はありがとう」

「いいえ。俺もいいことあったしね」


さらっとすごいこと言うな。
また更に顔が熱くなる。



「あれ?」

南野くんが何かに気づく。

「顔赤いよ?」


そう言って、おでこに手を当てた。



その瞬間、気が遠くなって、意識が飛んだ。












目が覚めると、保健室だった。

「あ、気がついたかい?」

保健室の先生が近づいてくる。

「河嶋ー、あんたね、39℃も熱あるのに学校に来るんじゃないの!」


え?
39℃?

…熱があったのか…。



「お母さんに連絡したけど、ちょっと仕事で手が離せないってゆーから、今日はここで寝てなさい」


「はあ…」



「帰りは南野が送ってくって言ってたからね」


え!?
南野くん?


ガバッと起き上がる。

「あーあー、ダメダメ。寝てなさい」

先生に戻される。

「な、なんで南野くん?」

「何言ってんだい?付き合ってんだろ?
倒れた時も南野が連れてきてくれたんだから」

先生がさらっと答えた。


「なっ…」


付き合ってるって?
そうなの?
誰がそう言ったの?


混乱しつつも、また熱でぼんやりしていて、いつのまにかまた眠ってしまった。









「…さん、河嶋さん」

誰かが名前を呼ぶ。

ゆっくり目を開けると、南野くんがいた。


「…南野くん…?」


「大丈夫ですか?」

南野くんの言葉にいきなり目が冴える。


「あっ!南野くんっ!?」


慌てて起き上がろうとするのを制止され、おでこに手を当てられる。


「まだ熱いですね」


というか、今熱くなっていく真っ最中です。


「送っていきますから」

そう言うと、私のカバンを持ってみせた。
いつのまに…。


支えられながらゆっくり立ち上がる。

立つと頭がくらくらして、足元がおぼつかない。


「…おぶっていきましょうか?」

南野くんのビックリ発言に慌てて首を振った。


「じゃあ、しっかりつかまってくださいね」


そう言って私の手を南野くんの腕に絡ませた。



「河嶋、気をつけて帰るんだよ。明日は無理しないで、熱が下がらんかったら病院に行くこと!
いいね?」

先生の言葉に頷く。


「じゃ、南野、頼んだよ」

先生は南野くんの背中をパシッと叩いて見送った。


南野くんが支えてくれてるとはいえ、熱でぼーっとするせいかあまり早く歩けない。

それでも、南野くんはゆっくり文句も言わずに歩いてくれた。



「あの…ありがとう…」


やっとお礼を言うと、南野くんは笑って、いいえ、と言った。

熱のせいなのか、南野くんのせいなのかわからないくらいドキドキしている。




歩いていると、やっぱりかなり体調が悪かったみたいで血の気がひいてきた。
南野くんは私の顔を見て、タメ息をひとつついた。


「そんな青い顔して無理しないでください」


そう言うと、ひょいと私をおんぶした。
焦ってジタバタする元気もなかった私は、黙って南野くんの背中に捕まった。



「…ごめぇん…ありがとぉ…」


南野くんの思ってたより広い背中にほっとする。
安心感でいっぱいになる。
目をつぶると、薔薇の香のようないい匂いがした。



「南野くん…いい匂いするねぇ…」



ぼんやりとそう言うと、南野くんが微笑んだ気がした。
顔は見えないのに、なんとなく感じる。



心地よくなって、また眠ってしまった。
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