妄想小説 短編

□サキヨミ 裏 完結編
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南野くんと付き合って明日で3ヶ月。
世間はクリスマスで賑わっている。

だけど受験生にはそんな浮かれたことしてられないのです。

南野くんは大学には行かないって言ってて、お父さんの会社に就職するみたい。

私は昔から弁護士になりたくて、大学に進学するつもりでいる。
成績はそんなに悪いほうじゃないけど、やっぱり追い込みかけないとキツい。

最近は放課後、私の家で南野くんが勉強教えてくれるデートしかしてない。

デートって言わないか。

ママは南野くんが来てくれるのが嬉しいみたいで、来ない日は残念がっている。

南野先生のおかげで、だいぶ成績も上がってきた。

南野先生は、余裕で受かるよなんて言ってくれるけど、やっぱり不安でガリ勉してしまう。
やってもやっても不安でいっぱいになる。


マキは音大に進むって言ってるし、いよいよバラバラになっちゃうんだな。



「今日は数学?」

「うん、昨日ひっかかってるヤツがあって…」

今日も学校が終わって、まっすぐ私の家に来て勉強。
南野くんは私のために時間を使ってくれてるけど、文句も言わないし、嫌な顔もしない。
学校の先生よりも教えるのが上手だしわかりやすい。


「今さらだけど、進学組で予備校通わないのって河嶋さんくらいじゃない?」

「だって、南野くんに教えてもらった方がわかりやすいし」

南野くんは笑っていた。

「俺の授業料は高いぞ」

「出世払いでお願いしますっ」


なんて話をしてたら電話がなった。
ママが今日、日帰り出張のはずが大雪で帰れなくなったらしい。


ふと外を見ると、確かに雪がちらついている。


「寒いわけだよねー」


部屋に戻り、南野くんにママが今日は帰らないことを話した。

「今日は私のご飯だけどいいかな?」

そう言うと、南野くんはにっこり笑ってくれた。

「それはラッキーだな」






南野くんは料理も手伝ってくれて、隣にたっているとなんていうか…新婚さん?みたいな…。


つい顔がにやける。

いつか本当に新婚さんになれたらなあ…。


「いたっ」


ぼんやりニヤニヤしてたら指を切ってしまった。
南野くんが苦笑しながら、絆創膏を貼ってくれた。


「何考えてたの?」

南野くんが聞くけど、答えられない。
顔が赤いのを見て、なんとなく察してくれたようだった。


「河嶋さんが敏腕弁護士になるのが想像できないな」


南野くんが笑っている。
…私もそう思います…。



ご飯は作れたけど、洗い物は南野くんがやってくれた。

「ご飯美味しかったよ。最近毎日ご馳走になってばかりでいいのかな」


「うん、だって勉強教えてもらってるし。
夜遅くまで付き合ってもらってるし」


食後のお茶を持って部屋に戻る。
テーブルに置いて、一息いれる。

「来週から冬休みだね」

「私は休みなしだなあ…」

「そんなに焦らなくても、十分力はついてるよ。
体調崩すのが一番怖いからね、休むときは休むんだよ?」


タメ息ついた私に南野くんが優しく言う。
確かにそうなんだけど…。

「落ちたら慰めてね」

「大丈夫だってば」


私の頭を撫でながら、微笑む。
そしてゆっくりキスをした。



「…なんか、久しぶりかも…」

勉強ばっかりの毎日だったし、ママもいたし、最近あんまりしてなかった気がする。

南野くんが微笑んで離れるのを、服を掴んで止める。

「河嶋さん?」


「…もっかい…して…?」


私の言葉に南野くんは驚きつつも、嬉しそうに笑った。


そしてまた、顔が近づく。


南野くんはいつもより強く肩を抱いた。
いつもより長いキスは段々南野くんの舌が私の口の中に入ってくる。



ちょっ…!
なになに??


軽くパニックになりつつも、南野くんは舌を絡ませてくるのを止めない。
心臓がバクバクする。

南野くんの舌が私の舌を離さない。
どうしたらいいのかわからない。
されるがままになってる。
息が苦しいのか、胸が苦しいのかわからない。
頭のてっぺんがピリピリする感覚にくらくらする。


「…っ…、ん…はっ…」

時々漏れる自分の声だけが部屋に響く。

それでも南野くんはキスを止めない。
だんだん激しくなってる気がする。



そして、南野くんは私の体をゆっくりと倒した。

南野くんの体が覆い被さるような感覚になった瞬間、身体中にあの時の感覚が走る。


怖い






「いやっ!」




気がつくと、南野くんを突き飛ばしていた。
南野くんは少し驚いた顔をしていた。


「ごめん、河嶋さん…」



私はたぶん青い顔をしていたんだと思う。
手が、体が震える。
南野くんだってわかってるのに、何故かあの日、襲われた時のことを思い出した。
忘れてたのに。
忘れてたと思ったのに。
すごく怖い。



「違うの…、南野くんが怖いんじゃないの…。
ごめん…違うの…」


涙が止まらない。
もう3ヶ月も前の事なのに、怖くて仕方ない。
手の震えも、心臓が締め付けられるような感覚も。
止まらない。



南野くんがそっと頬に手を伸ばしてくれたのに。
体がびくっとしてしまう。

南野くんが怖いんじゃないのに、怖くて仕方ない。



「ごめん…違うの…ごめんなさい…」




南野くんは、震える私をゆっくりと抱きしめた。
それでも震えはおさまらなくて、涙が流れる。


怖い。


どうしちゃったんだろう。


「大丈夫だよ」


南野くんが抱きしめながら囁く。



「大丈夫だから」



南野くんの言葉に、少しずつ落ち着くのがわかった。



どれくらいそうしていたのか、私の震えはおさまっていた。
おさまっても、南野くんは抱きしめ続けてくれた。
背中を軽くポンポンと叩いてくれると、鼓動も段々落ち着いてきた。



「…南野くん…」


「ん?」



「ごめんね…。
…ありがとう…」




「うん」




南野くんはそれからも、抱きしめていてくれた。
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