妄想小説 短編 2
□Baby Maybe
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「南野さん、コピー出来ました」
香の手から会議の資料30部が渡される。
「ありがとう」
「いえ」
そう言って笑った香は、どこか意味ありげだった。
髪をなびかせて、自席に戻る香の後ろ姿を見て蔵馬は小さく笑った。
いつからか、二人の合図になっていた。
アリュールの香り。
小さな会社では社内恋愛はご法度だ。
明言はされてないが、暗黙のルールだ。
それでも、やってはいけないというルールを破るのは、スリルがあり、より夢中になっていく。
蔵馬も例外ではなかった。
秘密ばかりの蔵馬は、秘密の恋愛にというよりは、秘密を楽しんでいる香に夢中になっていった。
職場では、そっけなく。
時々こうやって、二人の合図で嬉しそうに笑う。
二人で逢えば、片時も離れようとせずに甘えてくる。
香に夢中になっていた。
書類を確認しながら、ちらりと香を見る。
香も視線に気がついたが、口角を少し上げただけですぐにパソコンへ向き直した。
香はゲームでもしているかのようだった。
きっと俺の顔も同じように笑っているのだろう。
このゲームが楽しくて仕方がない。