妄想小説 短編 2
□paradox
1ページ/12ページ
あの時まさか蔵馬が私達を裏切るなんて。
思ってもみなかった。
「黄泉、あの妖気。気づいた?」
香の質問に黄泉は頷いた。
「蔵馬以外のはなんだろう?かなり強そうだったけど」
「今の仲間じゃないのか?」
黄泉は皮肉を込めてそう言った。
香は鼻で笑った。
「つまんない冗談」
でももし。
もし本当に今の仲間だったら…。
「教えてあげなきゃね。
あいつはいつか裏切るよって」
香はそう呟いて部屋のドアを開けた。
「香」
黄泉の声に香は振り返る。
黄泉は背を向けたまま小さく、だがはっきりと言った。
「また蔵馬と組む」
香は表情を変えずに答えた。
「…好きにしな」
ドアを閉じる音がいつもより強く響いた。
香の怒りを表すように。
黄泉は目頭を抑えた。
「時がきた…か…」
黄泉の前には大きな窓があり、そこに癌陀羅の町の明かりが輝いていた。
ようやく手にした自分の国。
だが黄泉にはもう、その眩いばかりの景色は見ることは出来なかった。
香の顔も、もう見ることは出来ない。
黄泉は拳を握った。