妄想小説 短編 2
□Dedicated to you
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2月14日はバレンタインデー。
世の中は甘ったるい匂いに包まれて、老若男女問わず何だかソワソワしている。
ご多分に漏れず、香もソワソワしていた。
鞄の中には徹夜で作ったチョコが入っている。
それだけで、ものすごい重要なものを運んでいるような気になっていた。
香は毎年この日がくると、同じような状況になっている。
だからそのあとのことも薄々勘づいてはいるのだ。
結局、渡せずに落ち込むことを。
「南野先輩!これ受け取って下さい!」
「あ、ありがとう」
「きゃーっ!」
こんな風に堂々と渡してくるのはたぶん一年生だろう。
あとで南野ファンクラブに一言言われてしまうんだろうな。
なんとなく南野くんには直接渡してはいけないルールみたいなのがあるらしい。
噂だからどこまで本当かはわからないが、去年のバレンタインデーの時一年生が何人か泣いていたのを見た人がいるらしい。
高校生最後のバレンタインデー。
南野くんは相変わらずモテモテだった。
「毎年毎年、大変だね」
「お返しがね。貰うのは別に大変じゃないですよ?」
「…お返ししてるんだ」
「まあ、一応ね。名前が書いてある場合に限りだけど」
「へー…意外」
あんなにたくさん貰ってるのにお返ししてるんだ。
結構マメなのね。
隣の席の南野くんは、机の中にいつのまにか入れられているチョコの山を、慣れた手つきで持参した紙袋にいれていた。
高校からの南野くんしか知らないけど、今までずっとこうだったんだろあなあ。
なんだか。
とんでもない人を好きになってしまった。
片想い三年目だが、改めてそう思う。
はあ〜…。
長いため息をついて、おでこを机に当てた。
「寝不足ですか?」
「ええ…まあ…」
「受験勉強もほどほどにしないと、いざというときに体調くずしちゃいますよ」
「…以後気をつけます」
私の言葉に南野くんは笑っている。
小悪魔…。
その笑顔が、すっごく可愛くて。
好きにならなきゃ良かったと思ってたのに、更に好きになってしまった。