妄想小説 短編 2

□空から降りてきた白い星
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蔵馬は携帯を前に悩んでいた。

仕事が急に入ってしまい、既に待ち合わせ場所で待っているであろう香にメールを送っておいた。
しかし、どういうわけか。

『未送信』

「まずいな…」

携帯には香からのメールと着信履歴がびっちりと残っている。

最初はまだかなー?とか喫茶店で待ってるよ〜とかで可愛い絵文字ああったのに。
徐々に。
まだ?
どこ?
何してるの?
連絡くらいできないわけ?
の一文。
もちろん絵文字なんかなし。

今から一時間前の最後のメールなんて。

『ワカッテルンデショウネ』


…何故カタカナなんだ…。

しかし、怒り具合が十分すぎるほどに伝わる一文に、蔵馬は頭の中をフル回転させて謝罪の言葉を考えた。


「秀一くん、悪かったね遅くなっちゃって」

「え?あ、いや」

後ろから畑中に話しかけられ、少し戸惑う。
それどころじゃない。
と、つい声を荒げそうになったからだ。

畑中に構う暇なく頭をフル回転させながら、帰り支度をする。

きっともう帰っているだろう。
家に行くべきか?
それとも明日にするべきか?
いや、まず会社を出たら電話だ。
これはひとつでも選択を間違えると一大事だ。

とにかく電話だ。
そう思って足早にドアを開けた蔵馬に、畑中は声をかけた。


「あ、秀一くん」

「…な、なんですか?」

内心イライラしながら平静を装う。
畑中はそんな蔵馬に気づかずに、ひとつの紙袋を取り出した。

「これ、志保里さんと私から。
誕生日おめでとう」


そういって、驚く蔵馬の手に紙袋を渡した。

忘れてた。

今日は俺の…南野秀一の誕生日。


「あ、ありがとう…。
もうプレゼントもらう歳でもないんだけどな」

そう言いつつも、嬉しさが込み上げてきて、自然と笑顔になった。

「親にとってはいつまでたっても子供だからね」

畑中は笑ってそう言った。


「香さんには祝ってもらったかい?」

「あ…!」

ほのぼのしてる場合じゃない。


「ごめん、親父!帰る!」

畑中の返事を待たずに蔵馬は携帯を弄りながら走って会社を後にした。


「…もしかして、遅刻したのかな?」

畑中は一人そう呟いて、息子のデートを邪魔してしまったことを反省した。
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